本研究では、腫瘍微小環境を舞台にがん細胞と間質細胞等が演じるドラマを分子レベルで解明する実験系の提供を第一目的とし、昨年度から研究を実施している。大きく分けて以下の2つの研究項目に取り組み、複雑系システムを理解するために多次元イメージング系の基礎を確立した。 細胞の蛍光ラベル:様々な蛍光タンパク質により細胞内のオルガネラをマークする発現ベクターを構築した。蛍光タンパク質については、Sirius、CFP、YFP、tdTomato、TurboFP650、KeimaおよびEGFPの7色それぞれについて、核(ヒストン)、細胞膜 、細胞膜、アクチン細胞骨格、細胞接着斑、早期/後期エンドソーム、ミトコンドリア、微小管、小胞体、ゴルジ装置、リサイクリングエンドゾームのオルガネラ局在発現ベクターを完成させた (計84種)。 3次元培養系の確立:前項で樹立した多彩な蛍光タンパク質でラベルした細胞を用いて、腫瘍微小環境を模倣した3次元培養系を構築した。 この培養条件下において液性因子や基質種類・混合比を調整しながら細胞の挙動を顕微鏡観察し、そのダイナミクスを時空間的に解析した。実際、扁平上皮癌細胞を用いた癌組織の形成を試験管内で再構成することに成功するとともに、その過程においての細胞の挙動の観察にも成功した。また、以前我々が同定した扁平上皮癌細胞の悪性度制御因子をこの系に用いることにより、高分化型扁平上皮癌から低分化型の癌組織を誘導することにも成功した。このことは、本研究で確立した3次元培養系が生体内の癌組織を反映していることが証明されたことになり、今後腫瘍微小環境内での詳細な分子メカニズムの解明のための協力なツールになると期待できる。
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