研究領域 | 感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換 |
研究課題/領域番号 |
23114502
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
加藤 光保 筑波大学, 医学医療系, 教授 (20194855)
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キーワード | 腸内細菌 / 大腸がん / 組織幹細胞 / 炎症 / マウスモデル / 間欠的増殖 |
研究概要 |
Apc^<Min/+>マウスにDSSを飲水投与すると腸内細菌に依存した大腸炎が起こり、大腸腺腫の発生が誘導される。この系を用いて、DSS投与時の大腸粘膜の変化について経時的観察を行った。正常粘膜部では、DSS投与により表層粘膜の剥離が起き、続いて炎症細胞浸潤と陰窩上皮の増殖亢進がみられたが、少なくとも高度の粘膜傷害がない部分では、組織幹細胞と思われる間欠的な増殖を示す細胞(間欠性増殖細胞;Geyser cell)の増加は認めなかった。一方、Apc^<Min/+>マウスの大腸に見られるβ-catenin蓄積陰窩(BCAC)では、DSSなしで間欠性増殖細胞の増加が著しく、Apc遺伝子のセカンドヒットによる変化と考えられた。このBCACに炎症刺激が加わると、間欠性増殖細胞の増加と一過性増殖細胞への分化あるいはその増殖促進の両者が起こり、総細胞数が持続的に増加して腫瘍形成に至ると解釈された。この発がん機構は、数学的な解析とそれを元にしたコンピューターシミュレーションでも確からしさが示された。この成果は、3次元組織内で特定の細胞数を数える定量的な解析によってもたらされる独創的な研究成果であると考える。間欠性増殖細胞が組織幹細胞である可能性を解析するために、この細胞の分子マーカーの検討を進めているが、これまでのところ、Bim-1,CD133,Lgr5などのタンパクレベルを免疫組織化学的に解析した結果では、特異的なマーカー分子を同定できていない。 Apc^<Min/+>マウスとTMEPAIノックアウトマウスの交配では、TMEPAI+/+マウスでも腫瘍数が激減しており、この腫瘍形成はB6系列のバックグラウンドに依存するので、バッククロスがいまだ不十分である可能性が示唆された。C18orf1マウスも作製できたので、今後、腫瘍形成に対する影響を解析する交配実験を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの大腸粘膜において、間欠的に増殖する細胞の存在を同定し、その細胞動態を炎症惹起時やBCACで解析できたことは、独創性の高い、当初計画を超える成果である。しかし、この細胞の増殖や分化に関与する可能性がるサイトカインの同定とこの細胞の分子マーカーの同定は終わっておらずこの点ではやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
間欠性増殖細胞の分子マーカーを同定し、この遺伝子座に赤色蛍光タンパク質(RFP)遺伝子を組み込んだマウスを作製して、間欠性増殖細胞が赤色蛍光で同定できるマウスを作製する。さらに、すでに作製したKi-67遺伝子座にGFP遺伝子を導入したマウスと交配し、live imagingを行い、間欠性増殖細胞が自己複製能と多分化能をもつか確認する。さらにこの細胞の増殖動態に炎症が及ぼす影響について検討する。また、細胞分化の階層性がある細胞動態の中で、炎症性サイトカインが粘膜上皮の増殖動態に及ぼす作用について検討する。
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