研究領域 | 感染・炎症が加速する発がんスパイラルとその遮断に向けた制がんベクトル変換 |
研究課題/領域番号 |
23114507
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
月田 早智子 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (00188517)
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キーワード | 癌 / 上皮細胞 / 細胞・組織 / 細胞間バリアー / 細胞接着 |
研究概要 |
上皮細胞シートは、多細胞生物の表面をおおって体内の大小のコンパートメントを形成し、生体がおのおののコンパートメントに特異的な機能を営むための至適な環境を作る。上皮細胞間接着装置タイトジャンクションは、必要に応じてバリアーを形成したり、選択的な物質の透過に預かる。 タイトジャンクションの透過性制御には、タイトジャンクションの静的な機能であるイオンや物質の選択的な透過性制御ばかりではなく、TJのダイナミックな構造変化が関与すると考えられているフラックスがあるが、これらの機能の使い分けや制御機構については、十分には理解されていない。 私共は、最近、胃を含む多くの上皮組織でのフラックスが、粘膜下側から管腔側へと向かう整流性を持つことを見いだした。そこで、特に、胃炎におけるタイトジャンクションの機能変化との関連について調べる目的で、胃における主要な胃型クローディン18ノックアウトマウスの解析を行った。本マウスは、外観上正常に成長するが、出生4日目には壁細胞や主細胞数の減少を示し、5週令マウスでは、完全な萎縮性胃炎を示した。電気生理学的な解析や滴定実験により、胃型クローディンの消失したTJを経たプロトンのリークがこの原因と考えられた。しかし、胃型クローディン18ノックアウトマウスにおける小分子ビオチン(433Da)やFITC-Dextran(4kD)の透過性亢進は認められなかった。 本マウスの胃炎は、好中球優位の急性炎症型の胃炎が持続する傾向にあったが、少数では、リンパ球優位の慢性炎症型の胃炎が発症してくる。こうした炎症の経過の違いに、胃内腔から粘膜下への食物残渣や細菌成分のフラックスによる排除機構の破綻や逆にフラックスを介した侵入が影響している可能性もあり、マウスの週令や炎症の持続期間や強さとの関連を含めて、今後、検討を行いたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胃型クローディン18ノックアウトマウスは、通常の胃炎マウスに比べ早期に炎症を惹起する。このことは、タイトジャンクションバリアーの重要性をはっきりと示唆するが、こうしたTJの重要性を生体で示した例は初めてであり、基礎/臨床応用両面の視野から意義あるものと考える。さらに、こうした炎症の惹起にペプシンやマクロ分子の関与が否定できたため。
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今後の研究の推進方策 |
胃型クローディン18ノックアウトマウスにおける胃炎の進行過程で、フラックスの向きや大きさに変化を生じるかについて検討を行う。これにより、炎症の進行における急性炎症から慢性炎症への変化にマクロ分子のフラックスの影響の有無について検討する。フラックスは通常、粘膜下から管腔へ向かうので、この破綻は粘膜下への菌体成分や食物残渣など生体に毒性として働く物質の蓄積を惹起し、炎症の特性を変化させる可能性がある。さらに、通常の野生型マウスや胃型クローディン18ノックアウトマウス以外の腸管に発現するクローディンのノックアウトマウスを用いた腸炎モデル(DSSやTNBS腸炎)による、炎症時のフラックスの変化や炎症に与える影響について検討していく。
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