上皮細胞間接着装置であるタイトジャンクションTJの透過性変化が炎症に及ぼす影響を、プロトンを含むイオン透過性、およびペプシンなど小分子に対する透過性(フラックス)の両面から、特に、胃の主要なクローディンである胃型クローディン18ノックアウトマウス個体を作製・解析した。 本KOマウスでは、特性が変化したTJを介してプロトンの透過性が亢進する。そのため、壁細胞の成熟にともなう胃酸分泌開始にともない、粘膜下へ胃酸が漏出し、IL-1βなどの炎症性マーカーの上昇と、偽幽門腺化生性胃炎へと進行する。本マウスは、プロトンの粘膜下への漏出が胃炎を惹起することを直接的に示したはじめての例である。一方、フラックスの亢進は認められず、ペプシン等のプロトンより大きな非イオン性の分子の透過による影響については、否定的であった。 今回のCldn18ノックアウトマウスで、萎縮性胃炎を生じたことは、クローディンの発現変動やそれにともなう微小環境の変化が、がん発生の結果ではなく、原因ともなりうることを実験的に示唆したといえる。私たちは、こうした研究成果を背景に、タイトジャンクションがつくる微小環境と炎症およびがん化との関連をさらに解析することで、がんの発症機構や抑制/治療基盤において、新しい概念を構築することを目指している。 現状では、Cldn18ノックアウトマウスは萎縮性胃炎まで進行している。1年を超える高齢ノックアウトマウスでは腸上皮化生様の組織変化やポリープの発生を見る場合があることが分かって来た。しかし、異型性やがん化への進行は認めていない。TJの障害は、胃酸の透過による炎症を惹起し、胃がんの下地を形成する可能性が示唆されるが、発がんの発生には、さらに危険因子が前提となると考え、現在、こうした付加基盤について、異種のトランスジェニックマウスとの交配を行うことなどの手法を用いて、検討中である。
|