本研究の主目的は、研究代表者が独自に開発した「遺伝子つなひき法」を用いて、遺伝子のコピー数の上昇という情報場への摂動が細胞システムによってどのように緩衝されるのかを、酵母の細胞周期制御遺伝子ならびに酵母のすべての遺伝子を対象に調査することである。またこの結果を組み込んで酵母の細胞周期の数理モデルの評価や改良を行うことも目的に含まれている。分裂酵母の細胞周期制御遺伝子のコピー数が変動した時にそれがタンパク質のレベルに反映されるのかを調査した。測定できた20の遺伝子・タンパク質のうち、1つ(Cig1)が正のフィードバックにより制御されている可能性が得られた。また2つ(Cdc16、Sid2)はタンパク質の発現上昇により自分自身の分解が加速され、遺伝子コピー数の上昇がタンパク質のレベルの上昇に結びつかないという緩衝機構があることが示唆された。また、遺伝子発現の上昇に対する緩衝機構のみならず、遺伝子発現の減少に対する緩衝機構の発見を可能にするため、遺伝子/タンパク質発現量の下限を測定する実験系を出芽酵母で開発した。具体的には、TEVプロテアーゼによる標的タンパク質の切断により分解を加速するTIPI(TEV protease-mediated induction of protein instability)と遺伝子つなひき法を組み合わせることで、いくつかの遺伝子の発現量の加減を評価する実験系を完成させることができた。
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