遺伝子群全体の制御の引き金となる"遺伝子座近接現象(ジーンクラスタリング)”に特化して、骨格筋分化の各段階での遺伝子座近接現象の解明を試みた。まず、3C-seq法を改変し更に広範なゲノム領域の解析なロングリード型の変法を開発した。更に、高解像度での解析のために、筋クレアチンキナーゼ、デスミン、ミオシン重鎖等の複数の骨格筋遺伝子マーカーのプロモーター領域に着目して4C-seq解析を行った。これは3C解析の解像度が組み合わせ問題により1M-10Mbpに制限されることが計算科学的手法で明らかとなったことに基づく。4C-seqの解析の際にはロングリード型3C-seqのライブラリー作成法をそのまま踏襲した。これらにより前年度に引き続き遺伝子座の空間的近接の時間軸、空間軸の両面から解析を行った。その結果、前駆細胞が、細胞分裂を繰り返す未分化段階で、既に骨格筋遺伝子座が集積していること、また集積した遺伝子座の発現が一過的に抑制されることを明らかにした。この集積領域には既に明らかとなっていたBrg1をはじめとする従来、遺伝子の発現転写活性化に関わるクロマチンリモデリング因子以外にも、Chd2、H3.3等の複数の分子の集積が明らかとなった。抑制型と活性型分子が同時に遺伝子の制御領域にリクルートされる現象は、未分化状態で一過的に起こっており分化後期ではこれら抑制性複合体のリクルートメントの消失と共に遺伝子集積も検出されない。一方で、この集積現象では、MyoDを線維芽細胞に強制発現させる分化誘導では、骨格筋組織形成同様に観察されるのに対して、分化が急激に起こる惹起されるMyogenin/Mef2D1bの強制発現による分化誘導系では、遺伝子集積現象の蓄積は確認されなかった。以上より、細胞分化での一過的な遺伝子発現抑制は、空間的な遺伝子座の再配置により抑制的な制御を受けてることが明らかとなった。
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