本研究では、神経突起などの微細部位でのみカルシウムシグナルが検知できる神経細胞を対象に、個体が自由に動く状況でカルシウムシグナル検出をする手法を開発し、行動中の神経活動と行動を定量的に測定することで、個々の神経活動と行動の関係を直接明らかにすることを目的とした。特に、神経回路における情報処理機構を知る上で鍵となる、線虫のAIY介在神経細胞に注目し、記憶や学習を調べる実験系である温度走性行動中の神経活動記録を目指した。 24年度はこれまでの成果に基づき高速トラッキングシステムの改良を行い、特に自動焦点合わせの精度と安定性を向上させ、それらを効果的に利用する応用実験方法を確立した。動く対象物を顕微鏡で観察する場合、高倍率になると対象を捕捉するための高速な制御と焦点合わせが問題となる。高速な制御はこれまの成果により実現できていたが、焦点合わせについては実現されていなかった。分岐させた顕微鏡光路と3台の高速カメラを使って、異なる焦点面から同時に画像取得を行い、その画像を使って焦点制御を行うシステムを開発した。さらに、AIY介在神経細胞で高感度のカルシウムプローブGEM-GECOを発現させ、蛍光イメージングを行った。動く対象におけるカルシウムイメージングでは動きによるノイズの影響を排除するため、蛍光プローブの感度の高さが非常に重要である。高感度のカルシウムプローブを実用化することで信頼性の高いカルシウムイメージングデータを取得できるようになった。これらの開発した機器、試料を用い、温度勾配を寒天プレート上に形成する装置と組み合わせることで、温度勾配上を自由に行動している線虫を高倍率で追尾しながら蛍光イメージングすることに成功した。このように、機能や動作機構を調べることが難しい介在神経細胞に対して信頼できる実験系を設立することができた。
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