研究領域 | メゾスコピック神経回路から探る脳の情報処理基盤 |
研究課題/領域番号 |
23115522
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
平瀬 肇 独立行政法人理化学研究所, 神経グリア回路研究チーム, チームリーダー (90392084)
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キーワード | アストロサイト / グリア / 大脳皮質 / アセチルコリン / イン・ビボ / マウス / 記憶 / 学習 |
研究概要 |
脳は神経細胞とグリア細胞、血管とで構成されている。グリア細胞はヒトの脳細胞の約半数を占め、大脳皮質で最も数が多いのがアストロサイトである。アストロサイトは、神経細胞への栄養補給など補助的役割だけを担うと考えられてきたが、近年、シナプス可塑性へも関与する可能性が示唆されている。しかしながら、これまでの研究はいずれも脳切片※5などを用いていたため、生きたままの動物の脳では、アストロサイトとシナプス可塑性の関係は全く不明であった。今回、我々は、生きたままのマウスの大脳皮質にシナプス可塑性を誘導し、このときの大脳皮質にあるアストロサイトの活動を、2光子励起顕微鏡を用いてリアルタイムで観察した。その結果、シナプス可塑性の誘導中に、アストロサイト内のカルシウム濃度が顕著に上昇することを発見した。細胞内のカルシウム濃度は、通常、細胞外と比べて低く保たれており、この濃度が上昇することで多くの生理的反応が生じることが知られている。アストロサイトの場合には、細胞内カルシウム濃度の変動が、細胞活動の指標となり、カルシウム濃度上昇により、物質放出(グリオトランスミッション)が起こることが培養細胞を使った実験系で実証されている。今回の実験で、細胞外のアミノ酸の量を測定できる微小透析法で調べたところ、生きている動物の脳内でも、アストロサイト内カルシウムの上昇に伴って、アストロサイトが放出するとされているアミノ酸の一種(D-セリン※7)の量が、細胞外で増加することも見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アストロサイトの活動がシナプス可塑性にマクロなレベルで関連のあることは示すことができたが、微小突起等のミクロなレベルでの実体が明らかにされていない。
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今後の研究の推進方策 |
感覚刺激を操作することにより、大脳皮質体性感覚野のシナプス変化を誘発する実験系を洗練する。トランスジェニック動物や無麻酔頭部固定系等の方法を導入し、シナプス可塑性と周辺のアストロサイトの活動実態をより明らかにする。また、必要な場合は、電子顕微鏡によるシナプスおよびアストロサイト微小突起の観測をし、よりミクロなレベルでの変化を記述する。
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