本研究は、時期特異的・細胞タイプ特異的なウイルス発現系の確立を通して、鳴禽類ソングバードを音声発声学習研究の動物モデルとして利用していくことを目的とした。具体的にはウイルス発現系を用いたソングバード脳内遺伝子改変技術の開発・実験応用を次の2点にフォーカスして施行した。 (I)「発現時期特異性」と「投射神経細胞特異性」を兼ね備えたウイルス発現実験系の確立と利用:これまでに様々なプロモーター及びウイルス種の組み合わせによる脳内試験投与を行ってきた。その結果、AAV-9(アデノ随伴ウイルス9型)によってRA神経核内投射神経細胞特異性に遺伝子発現誘導が可能となることを見出した。この発現は最低でも2か月以上におよび、ソングバード発声行動学習臨界期間を十分カバーするものであった。現在、エピジェネティクス制御因子関連遺伝子の発現誘導を試みている。 (II) レンチウイルスによるトランスジェニック・ソングバード作製 レンチウイルスを胚発生時の生殖系列細胞に感染させることによりF1世代でトランスジェニック・ソングバード作出をロックフェラー大学Wan-chun Liu博士と共同研究を現在進めている。これまでに、キンカチョウのみならず、カナリアでもトランスジェニック個体を作出することに成功した。カナリアは毎年発声学習の再学習を行う種であり、このトランスジェニック個体作出の成功により発声学習研究の新たな動物モデルとしての可能性をもっている。
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