本研究の目的は、生物が持つ「神経系の活動状態」とそのアウトプットとしての「行動」を高い時間・空間分解能で計測する装置を開発することである。生物の行動を理解するためには、それを作り出している神経系の複雑な情報処理過程を解明することが必要不可欠である。しかし、近年の行動遺伝学の進展にもかかわらず多段階の情報処理過程はいまだにほとんど明らかにされていない。その最も大きな原因は、観察倍率と視野サイズがトレードオフの関係にあり、運動する生物を高い空間分解能で長時間観察することができないことにある。そこで本研究では、「顕微鏡画像のフィードバックにより顕微鏡ステージを制御して生物の行動を追跡する」という、本質的な解決策により、高い時間分解能を保ったまま神経活動を長時間記録・解析可能なシステムを開発する。 とくに、モデル生物として盛んに研究されている線虫(C. elegans)やゼブラフィッシュ(Danio rerio)の神経部位を明視野像と蛍光像を用いてリアルタイム追跡し、同時に神経細胞の蛍光像を定量計測できる顕微鏡の実現を目指す。 本年度は、線虫の変形やZ軸方向のズレにロバストな画像処理アルゴリズムとその高速化手法の開発、高精度な三次元追跡システムの実現、神経細胞レベルで光刺激可能な光学プロジェクタシステムの実現、1600fps超高速カメラを用いたゼブラフィッシュトラッキングシステムの実現などを実施した。 これらの成果は、埼玉大学中井教授、大阪大学木村准教授、名古屋大学森教授、東京大学飯野教授などの研究室に導入され、今年度はシステムハードウェア・ソフトウェアの改良を行いつつ、いくつかの重要な共同研究成果を発表するに至った。
|