研究概要 |
本研究では、線虫の温度応答に関わるシンプルな神経回路を実験系として(Kuhara et al.,Science,2008)、最新の光駆動性チャネルによる神経活動の操作技術を導入することで、神経情報処理の新概念の創出をめざした。具体的には、(1)行動時や、(2)記憶時の特定の時間において神経回路活動を操作することにより、行動や記憶に関わる生理的暗号を明らかにすることを目的とした。本研究は、光駆動性チャネルの利点である、意図した「場所」と「時間」で神経活動を制御するだけでなく、従来忘れがちになっている「意図した強さ」でという3つめの利点を生かし、回路活動の細かな変化により引き起こされる神経の暗号を明らかにした。具体的には、光駆動性チャネルをつかい温度受容ニューロンAFDの神経活動を操作し、同時に温度応答に関わる温度受容ニューロンAFDと、その下流の介在ニューロンAIYの温度刺激に対する細胞内のカルシウムや膜電位の変化を、それぞれのインディケーターであるカメレオンとマーメードで測定した。その結果、温度受容ニューロンAFDから介在ニューロンAIYへの興奮性と抑制性の神経伝達に関わる新規の生理的なコードを明らかにした(Kuhara et al.,Nature commun,2011)。この研究は、シンプルなモデル動物をつかうことで可能であった先進的な研究であり、本研究から得られる成果は、感覚情報処理から記憶にいたる多くの分野の研究に、インパクトを与えることと考えられる。
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