1.先天的な恐怖反応を誘発する匂い分子の同定。嗅覚入力による先天的な恐怖反応を誘発する匂い分子の特異性は不明である。本計画では匂い分子の化学構造の最適化を図ることで、先天的な恐怖情動を誘発する匂い分子の条件の決定に成功し、既知の匂い分子を用いる手法では不可能であった極めて強力な先天的恐怖を誘発する技術の確立をした。 2.嗅覚による先天的と後天的な恐怖に伴う生理応答の解析。同一感覚入力によって、同等レベルのFreezing行動を伴う恐怖は、既知の恐怖の指標では同等の恐怖と評価される。本研究では先天的と後天的な恐怖を特異的に評価する新たな指標を発見し、両者の恐怖が区別できることを初めて解明した。 3.先天的と後天的な恐怖を制御する神経メカニズムの解析。嗅覚入力によって誘発される先天的と後天的な恐怖を制御する神経メカニズムの全貌を解明するために、両者の恐怖を誘発した条件での全脳神経活性化マッピングによる比較解析を実施した。全脳神経活性化マッピングにより同定された、先天的と後天的な恐怖の制御に特異的に関与する候補脳領域の機能を薬理阻害実験により解明した。また、先天的な恐怖の制御に関与する特異的な分子ターゲット候補を薬理阻害実験により同定した。 上記の1から3の研究計画を通して、同一の感覚入力によって誘発され、同等の行動応答を伴うと条件においても、先天的と後天的な恐怖は明確に異なる情動応答であることが示された。恐怖情動には複数種類の異なる様相が存在するという新たな概念が提案された。
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