研究領域 | 神経系の動作原理を明らかにするためのシステム分子行動学 |
研究課題/領域番号 |
23115723
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
吉原 良浩 独立行政法人理化学研究所, シナプス分子機構研究チーム, シニア・チームリーダー (20220717)
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キーワード | 嗅覚系 / 神経回路 / ゼブラフィッシュ / 誘引行動 / 忌避行動 / 遺伝学的単一細胞標識法 / 匂い地図 / 高次嗅覚中枢 |
研究概要 |
嗅覚系は物体から発せられる匂い分子を受容し、その情報を鼻から脳へと伝え、匂いのイメージを脳内に表現・創造・記憶あるいは快・不快の感情を誘起して、様々な行動を発現する神経システムである。私たちは多様な実験手法を統合的に利用可能なモデル脊椎動物としてのゼブラフィッシュの利点を最大限に活かし、好きな匂いへの誘引・嫌いな匂いからの逃避・フェロモンを介した性行動など嗅覚行動の基礎となる神経回路メカニズム解明へ向けて、以下の項目について解析を行った。 (1)発生工学的手法を駆使した二次嗅覚神経回路の包括的可視化解析 (2)匂い入力から行動出力へと至る嗅覚神経回路の機能素子の解明 (2-A)好きな匂いによって引き起こされる嗅覚誘引行動 (2-B)警報フェロモンによって引き起こされる嗅覚忌避行動 (2-C)性フェロモンによって引き起こされる性行動 平成23年度は特に、ゼブラフィッシュ嗅球出力ニューロン(僧帽細胞)の遺伝学的単一細胞蛍光標識法をimage registrationシステムと組み合わせることによる二次嗅覚神経回路の包括的解析を中心に行った。その結果、終脳の背側後部(Dp)はすべての僧帽細胞から入力を受け、それらの軸索投射領域はDp内で密にオーバーラップしていることがわかった。この結果からゼブラフィッシュ終脳Dp領域は、哺乳類の梨状皮質(piriform cortex)に相当し、匂いの識別や記憶に機能する可能性が示唆された。一方、終脳の腹側前部(Vv)、右手綱核、視床下部などは、特定の糸球体から匂い情報を受け取る僧帽細胞から入力を受けていることが明らかとなった。すなわち、これらの高次嗅覚中枢領域は、特定の匂いやフェロモン刺激によって引き起こされる先天的な嗅覚反応を司る可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゼブラフィッシュ嗅球における糸球体クラスターごとに、二次嗅覚ニューロン(n=7/cluster)の投射パターンを単一細胞可視化解析するのが当初の予定であった。現在までに解析に十分なサンプル数が得られ、それらのトレーシング、3次元構築、image registrationによる画像の平均化、さらには統計学的解析へと研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度はおもに遺伝学的手法を駆使した神経解剖学的解析を行い、ゼブラフィッシュ嗅球の単一ニューロン蛍光可視化に成功し、二次嗅覚神経回路の機能構築原理に迫ることができた。今後はこの結果を神経活動イメージングや行動学的解析と組み合わせた統合的な研究を予定している。本研究により嗅覚神経系における機能的神経回路構築の分子基盤が解明でき、さらに最終的な匂いのイメージ形成・記憶形成・情動誘起・行動発現へと至るための高次嗅覚中枢での匂い情報コーディング様式についての新たな概念を提唱できると期待する。
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