研究概要 |
以下の本年度の「研究の目的」,「研究実施計画」に沿って幾つかの興味ある知見が得られた. 目的・計画1.モデル動物や質量分析(MS)等を駆使して,未だ存在が確定していない「ホスファチジルイノシトール(PI)代謝回転とは独立した未知のジアシルグリセロール(DG)代謝経路」を探索・同定する: 1.液体クロマトグラフィー/MSを用いたDGキナーゼ(DGK)の代謝産物ホスファチジン酸分子種の簡便・安定的な分析手法を確立した 2.DGKαはアラキドン酸(20:4)以外の不飽和脂肪酸(18:1等)を含む幅広いDG分子種に選択性を持つ 3.DGKδは飽和脂肪酸のみを含有するDG分子種(30:0,32:0,34:0(2本の脂肪酸の和))に選択性を示す 以上の結果は,DGKαやδはPI由来のアラキドン酸(20:4)を含むDGではなく他の経路由来のDG分子種を基質にすること,即ち,これまで誰も想定していなかったPI代謝回転とは独立した「新規シグナルグリセロ脂質代謝系」の存在の可能性を示している. 目的・計画II.本新規経路の生理機能や病態における役割を解析することによって,その重要性・普遍性を明らかにする: 1.DGKαはRas-Raf-MEK-ERK経路の活性化によりヒト肝細胞がんの進行を促進する 2.c-AblチロシンキナーゼはTyr-218のリン酸化によってDGKαの血清誘導性の核から細胞質への移行を制御している 3.Ca^<2+>結合に伴いDGKαのEFハンドモチーフの構造が変化し,それによってC末側領域との分子内相互作用が弱まる 4.神経細胞においてDGKγの細胞膜局在と糸状仮足様突起形成には相関関係が認められる 5.グルコース刺激によってDGKδはプレクストリンホモロジーとC1ドメインを介して細胞膜へ一過性に移行する 6.DGKηは高浸透圧刺激に応じて脂質ラフトとは異なる界面活性剤不溶性膜画分へ移行する
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように,本年度の研究目的・計画に沿ってほぼ順調に進行し,これまで誰も想定していなかったPI代謝回転とは独立し,且つ,PI代謝回転に匹敵するほど多機能な「新規シグナルグリセロ脂質代謝系」の存在とその重要性の証明に繋がる様々な興味ある知見が得られた.
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