研究概要 |
近年の分子生物学の進歩に伴い、遺伝性毛髪疾患の原因遺伝子が複数同定された。その中には、脂質のシグナル伝達系で重要な役割を果たす遺伝子も含まれている。一方、原因遺伝子が未知の疾患も残されており、更には、日本人における本症の遺伝子レベルでの情報は非常に乏しいのが現状である。 平成23年度は、非症候性の先天性毛髪疾患の日本人家系36家系について遺伝子解析を行った。その結果、30家系でリパーゼH(LIPH)遺伝子に変異が同定された。変異の種類・パターンは、2種類のミスセンス変異(c.736T>A(p.C246S),c.742C>A(p.H248N))がそれぞれのホモ接合型あるいは両者の複合ヘテロ接合型だった。日本人のLIPH遺伝子の変異は現在までにこの2つしか報告されていない。本変異は日本人に特有の変異であり共通の祖先を発端者とする、いわゆる創始者変異であることが強く示唆された。また、これらの変異アレルを有する頻度から、日本人においては1万人に1人程度の患者が存在していると推定された。今回解析を行った36家系中、30家系という高い頻度でLIPH遺伝子に変異が同定されたことからも、日本人の非症候性毛髪疾患の原因遺伝子としてLIPH遺伝子が最も重要であると考えられた(Shimomura, J Dermatol, 2012)。一方、残りの6家系については、既知の原因遺伝子がすべて除外されたことより、まだ報告されていない遺伝子に変異が存在する可能性が示唆された。 上記に加え、脂質マシナリーの班員の一人である、浜松医科大学解剖学教室の瀬藤光利教授のグループとの共同研究により、新たな手法を用いて、加齢に伴い量が変化する毛髪中の脂質を複数同定した(Waki et al., PLoS One, 2011)。
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