研究領域 | 生命応答を制御する脂質マシナリー |
研究課題/領域番号 |
23116509
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
多久和 陽 金沢大学, 医学系, 教授 (60171592)
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キーワード | スフィンゴシン-1-リン酸 / 脂質メディエーター / 血管 / 炎症 / 病態生理 |
研究概要 |
研究実績の概要 本年度は、以下の研究に取り組んだ。近年見出された血漿中のスフィンゴ脂質メディエーター、スフィンゴシン-1-リン酸(以下S1Pと略称)は、5種のG蛋白共役型受容体、S1PR1~S1PR5を介して多彩な作用を及ぼす。生体では、血管内皮細胞と平滑筋、およびリンパ球や単球などの白血球が重要なS1P標的細胞であることが明らかになりつつある。肺血管透過性亢進病態と粥状動脈硬化のマウスモデルにおいて、血管内皮障害、マクロファージ・マスト細胞の活性化に関与するS1P受容体(S1PR)、上記マウス疾患モデルにおけるS1PRの治療標的としての可能性、血液-組織間S1P濃度勾配の役割、ならびにマウス動脈硬化モデル基礎研究で得られたS1PR機能の知見がヒトに当てはまるか否か、の探索・解明に取り組んだ。 その結果、以下の結果が得られた。肺血管透過性亢進病態モデルにおいて、S1PRの一つが重要な役割をはたすこと、この作用に内皮細胞機能調節が関与していること、使用したモデルではS1Pは炎症細胞によるメディエーター産生には大きな影響をおよぼさないことを見出した。また、S1PR遮断薬をマウスに投与後、薬物の血中濃度変化を測定する方法論を確立した。さらに、動脈硬化マウスモデルにおいて、S1Pを産生する主要酵素スフィンゴシンキナーゼー1(SphK1)の過剰発現の効果(SphK1-トランスジェニック(TG)マウス)を検討し、SphK1-TGマウスにおいて病変が異なる傾向が観察された。肺血管透過性亢進病態モデルマウスにおける骨髄キメラ実験において、骨髄細胞もしくは宿主細胞いずれかでS1PK1が過剰に発現すると、肺血管透過性亢進刺激に対する感受性が亢進した。ヒト単球ではS1P2が主要なS1P受容体であり、粥状動脈硬化発症に関係する細胞代謝に影響を及ぼすことを見出した。 これらの結果は、S1Pシグナル系が炎症細胞の活性化、内皮障害などの各過程に関わり、炎症性疾患の新たな治療標的となることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炎症細胞の骨髄→血中、血中→組織への動員におけるS1PRの関与、ならびに白血球接着分子発現、サイトカイン産生へのS1P作用など病態におけるS1P作用の分子機構の解明に不十分な点があった。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね申請書に記載の計画にしたがって研究を推進する。肺血管透過性亢進病態モデルとしては、リポポリサッカライド投与モデルの他に、アナフィラキシーモデルも用いて、病態におけるS1Pの役割の解析を進める。
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