公募研究
脂質および脂質動態の可視化について、以下のような成果が出た。1)統合失調症患者の死後脳を質量顕微鏡で解析し、前頭前皮質においてリン脂質の分布が異常であることを見出した(Matsumotoら報告)。2)マウスの舌を質量顕微鏡で解析しスフィンゴ脂質の特徴的分布の可視化に成功した(Enomotoら報告)。3)動脈硬化症の標本を質量顕微鏡で解析し、新しい組織病理学的特徴を見出した(Zaimaら報告)。4)正常ヒト死後脳を質量顕微鏡で解析し、大脳の灰白質と白質においてヒドロキシル化サルファチドと非ヒドロキシル化サルファチドの分布が大きく異なることを見出した(Yukiら報告)。5)TLCプロット法と質量顕微鏡を組み合わせ、ヒト脳のガングリオシド分子種の分離・同定に成功した(Valdes-Gonzalezら報告)。6)下肢静脈瘤を質量顕微鏡で解析し、脂質の局所的な蓄積とリンパ管の消失を発見した(Tanakaら報告)。7)領域の班員である新潟大学大学院医歯学総合研究科遺伝性皮膚疾患研究室との共同研究として、若年、中年、壮年期のヒトからの毛髪を質量顕微鏡で解析し、加齢に伴って変化する脂質分子種の可視化および同定に成功した(Wakiら報告)。なお本報告は加齢の分子マーカー候補を発見したとして新聞各紙で報道された。8)マウス精巣を質量顕微鏡で観察し、精巣の発達に伴う脂質分子種の分布変化を明らかにした(Goto-Inoueら報告)。9)術後脳浮腫に対する様々な灌流液の効果を質量顕微鏡により評価し、効果のある液体を同定した。この発見は今後、術後脳浮腫の予防に結びつくと期待される。10)培養神経細胞を質量顕微鏡で解析し、神経軸索の基部と遠位部においてリン脂質の分子種の組成が大きく異なること、さらにはその脂質分子種の差違がアクチン繊維のダイナミクスにより生み出されていることを発見した(Yangら報告)。これは質量顕微鏡技術により細胞生物学レベルで脂質分布が可視化された世界で初めての知見であり、質量顕微鏡の新たな可能性を示した。
1: 当初の計画以上に進展している
脂質および脂質代謝に関する報告をすでに原著論文に15報発表した。また、領域で推奨されている領域の班員同士の共同研究についても、新潟大学大学院医歯学総合研究科遺伝性皮膚疾患研究室との共同研究がすでに原著論文として公表済みである。さらに領域が推奨する若手の活躍という観点でも、学部生が筆頭著者として原著論文を発表した。以上のように、当初計画を上回る勢いで研究が進展している。
当初の計画以上に研究が進展しているため、最終年度にあたる平成24年度はより挑戦的な研究に取り組みたい。例えば、脂質代謝異常による疾患の治療を目指したモデル動物の作出やその解析などが学術的にも臨床応用面でも非常に重要になると考えられる。あるいは質量顕微鏡と次世代シーケンサを組み合わせた新しい解析手法を確立し、そこから既存の概念を超える新しいブレークスルーをもたらしたい。
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すべて 雑誌論文 (15件) (うち査読あり 15件) 学会発表 (8件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
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