研究実績の概要 |
不飽和脂肪酸が、脂質およびエネルギー代謝、炎症反応、摂食行動などの様々な生理機能を調節する脂質メディエーターとして働くことが明らかにされつつあるが、その産生制御・作用機序は依然不明な点が多い。本研究では、ショウジョウバエをモデル動物として用い、脂肪酸不飽和化酵素を介して個体の脂質・エネルギー代謝を制御する分子ネットワークの実体を明らかにすべく研究を進めた。 ショウジョウバエにおいて膜流動性を制御する唯一の脂肪酸不飽和化酵素であるΔ9脂肪酸不飽和化酵素(Desat1)に着目し、同酵素の組織特異的発現誘導・抑制個体を作製・解析したところ、脂肪体(哺乳動物の肝臓および脂肪組織に相当する臓器)に発現するDesat1が、個体の脂質及びエネルギー代謝の制御において重要な役割を果たすことを見出した。さらに、脂肪酸不飽和化酵素がいかなる分子機構でエネルギー代謝に影響しているのかを明らかにする目的で、Desat1に結合するタンパク質群を免疫沈降と質量分析により同定した。その結果、ミトコンドリアにおけるATP産生に関与するATP/ADP輸送体(Stress Sensitive B, SesB)がDesat1と相互作用していることが明らかとなった。さらに、組織特異的遺伝子抑制システムを駆使して、個体サイズ制御に影響を及ぼすミトコンドリアタンパク質をスクリーニングした結果、sesB発現抑制個体においてdesat1発現抑制と同様の形質変化が観察された。また、desat1ならびにsesB発現抑制個体の脂肪体では、ミトコンドリアの顕著な形態変化(断片化)と膜電位の低下が認められた。これら一連の解析により、Desat1がSesBと密接に相互作用し、SesBの膜脂質環境を変化させることによりその活性を制御している可能性が示された。
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