公募研究
近年、精神疾患における炎症関連分子、特にプロスタグランジン(PG)の関与が注目されている。しかし、その作用機序は不明である。研究代表者らは、マウスうつ病モデルである反復社会挫折ストレスによる抑うつの誘導とドパミン関連領域の可塑性にPGE2-EP1系が必須であることを示している。さらにPG合成酵素COX1の遺伝子欠損マウスや阻害薬により社会挫折ストレスによる抑うつ行動が消失することも見出している。本研究では、反復社会挫折ストレスによる抑うつ誘導におけるPGE_2-EP1の作用機序を解析しつつ、他のPG受容体の関与も検討し、反復ストレスにおけるCOX1の作用点の同定を試みる。まず我々は、EP1による前頭前皮質のドパミン系抑制が社会挫折ストレスによる抑うつに必須であることを示した。一方、EP2やEP3の遺伝子欠損マウスでは社会挫折ストレスによる抑うつは正常であり、Nestin-Creによる脳神経特異的なEP4欠損マウスでも異常を認めなかった。反復ストレスによる抑うつに必須であるCOX1は脳内ではミクログリアに発現を認め、反復ストレスの前後で発現量に変化はなかった。また、ミクログリアの活性化マーカーIba-1の免疫染色やミクログリアの細胞形態の解析により、反復社会挫折ストレスによるミクログリアの活性化が示唆された。このことから、反復ストレスにより活性化されたミクログリアに由来するPGE_2がEP1を介して抑うつ行動を惹起する可能性が示唆された。以上の結果を論文として発表した(田中らJ Neurosci,2012)。また、ドパミン制御に関わる他のPG受容体を探索し、線条体の血管内皮に発現するトロンボキサン受容体TPの活性化が一酸化窒素を介してドパミン放出を促進することを示した(三森らEur J Neurosci,2011)。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的の一つは、反復社会挫折ストレスによる情動変化におけるPGE_2-EP1系の作用を、ドパミン系と炎症関連分子との関連性に着目して明らかにすることであり、この目的はすでに達成されている。また、反復社会挫折ストレスにおける他のPG受容体の役割を調べることも目的としているが、反復ストレスにおけるEP2、EP3、EP4の関与についてはすでに解析した。さらに、ドパミン系を制御する他のPG受容体の探索から、トロンボキサン受容体TPが線条体のドパミン放出を促進することを示しており、情動制御に関わる新たなPG受容体を同定している。社会挫折ストレスにおけるCOX1の作用点を同定することも目的としており、COX1の条件付欠損マウスの作出を行っているが、ターゲティングベクターの作成はすでに終了した。以上から、本研究は目的に照らし、概ね順調に進展していると言える。
反復ストレスの検出機構に迫る上で、反復ストレスによるミクログリア活性化とPGE_2生成機構を明らかにすることが重要となる。これについては、反復ストレスによりミクログリアで誘導される遺伝子を同定し、そのうちPGE_2生成機構に関与するものを絞り込む方策が考えられる。本研究では反復ストレスにおけるCOX1の重要性を示したが、ミクログリアに発現しているCOX1が関与するかはまだ検証が必要である。この目的には、ミクログリア特異的なCOX1欠損マウスの作出が有効であり、来年度以降もCOX1 floxマウスの作出を継続する。これまでの解析から、EP1がドパミン神経細胞への抑制性シナプス入力を直接増強することにより皮質ドパミン系を抑制することが示唆されている。この仮説の検証には、EP1条件付け欠損マウスによる解析を計画している。ドパミン放出を制御する新たなPG受容体として我々はトロンボキサン受容体TPを同定したが、反復ストレスにおける関与は不明である。今後TPを含め、他のPG受容体についても解析する予定である。
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