本研究では、神経障害性やストレス性疾患を含む上位脳が深く関わる全身性疼痛について、申請者が見出した神経障害性疼痛誘発因子リゾホスファチジン酸(LPA)合成の観点から、その責任性を網羅的かつ体系的に解析し、慢性疼痛の創薬およびバイオマーカー探索を目指す。 これまでにPhostag技術を用いた新規のTOF-MS法により、バイオマーカー候補となりうるLPA分子種の同定に成功しているが、今年度は本技術を用いたLPA合成の分子メカニズム解析において、初期でのLPA産生には、cPLA2とiPLA2活性化により誘発されることを見出し、さらにこの合成酵素の上流には神経障害によって遊離されるサブスタンスPとグルタミン酸の相乗的な疼痛刺激が引き金となることを明らかにした。また、興味深いことに18:1-LPAを脊髄クモ膜下腔内に投与すると、LPA自身の産生を増強することを明らかにしており、このメカニズムにおいてはミクログリアの活性化の関与を見出している。一方、LPAの責任合成酵素の一つであるcPLA2の活性化型(リン酸化cPLA2)は主に神経で観察されるが、このcPLA2の活性化およびLPA産生は、ミクログリアの阻害剤で抑制されることから、神経障害時に産生されるLPAはミクログリアに存在するLPA受容体に作用し、協調的な制御機構を介して神経でLPA産生を増強しているものと推定される。また申請者は、これらのLPA誘発性LPA産生増幅機構を手がかりに、慢性疼痛を治癒へと導く分子基盤を明らかにしており、既に関連する複数の標的については、公的化合物ライブラリーを用いて慢性疼痛の新規治療薬開発を目指したLPA創薬スクリーニングを実施している。一方で、神経障害性疼痛モデルに加えて、脳梗塞やリウマチなどにおいてもLPA合成の関与を証明しており、LPA創薬は新規の慢性疼痛治療薬となりうることが期待される。
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