研究実績の概要 |
大動脈瘤は血管壁内の炎症と弾性線維をはじめとした細胞外基質の分解を特徴とする、進行性の致死性疾患である。炎症と細胞外基質の分解により血管壁が脆弱化すると、血管内圧力のために大動脈の直径は拡大し、破裂時の死亡率は30%以上と非常に高い。しかしながら現在、対処療法である外科的治療以外の根本的治療は存在しない。本研究では、プロスタグランディンE受容体EP4シグナルを抑制することで、大動脈瘤の進行を抑制する初めての薬物治療の開発を目的とした。まず、1.ヒト大動脈瘤の組織においてEP4の発現と弾性線維の分解との相関を明らかにした。ついで、2.大動脈瘤組織の器官培養でEP4刺激がサイトカイン産生やマトリクスプロテアーゼの活性を上昇させること、3.EP4欠損マウスではカルシウムクロライドによる大動脈瘤の形成が抑制されること、4.EP4とApoEのダブル欠損マウスではアンジオテンシンIIによる大動脈瘤の形成が抑制されること、5.EP4拮抗薬がアンジオテンシンIIによる大動脈瘤形成を抑制することと、その薬物至適濃度の決定、6.ヒト大動脈瘤組織の器官培養でEP4拮抗薬のサイトカイン産生とマトリクスプロテアーゼ活性を抑制すること、7.アンジオテンシンIIにより形成された大動脈瘤に対しEP4拮抗薬による退縮効果が認められたこと、を明らかにした。本研究の成果は、論文として公表した(PLoS ONE, 2012)。 本研究により、大動脈瘤の進行抑制薬または治療薬としてEP4拮抗薬が有効である可能性が強く示唆された。この成果を基に、EP4拮抗薬の前臨床研究が現在進行している。 本研究で検討した薬物の至適濃度がヒトで適切であるか、副作用の危険がないかどうかをさらに検討する必要があり、また、副作用の予測としてEP4拮抗薬の他の作用を網羅的に解析することを予定している。
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