本研究では、プロスタグランジン(PG)最終合成酵素群に注目し、PG様脂質性メディエーター産生フローの全体像を明らかにすることを目的としている。本年度は、昨年度に引き続き、PGE合成酵素(PGES)の1つ mPGES-1とPGI合成酵素(PGIS)、各々の単独KOマウスおよび二重欠損(WKO)マウスの表現型を解析し、以下の点を明らかにした。 1) 発がん:アゾキシメタン投与により生じる化学発がんの初期に観察される異常腺窩巣(ACF)の形成も、ポリープの形成同様、mPGES-1 KOマウスでは抑制されるのに対し、PGIS KOマウスでは逆に促進されること、DKOマウスではその中間の表現型を示すことを明らかにした。また、PGISは腫瘍組織周囲の血管に発現し、PGIS KOマウスでは血管の形態異常が見られることも見出した。さらに、培養癌細胞を移植した際の増殖も、mPGES-1 KOマウスでは抑制されるのに対し、PGIS KOマウスでは逆に促進されることを明らかにした。PGISを介し産生されるPGI2は発がんの初期段階から増殖の過程に至る多くの段階を抑制することが示唆された。 2)肥満:野生型マウスでは高脂肪食負荷によって体重が顕著に増加するのに対し、PGIS KOマウスでは体重増加の抑制が認められ、DKOマウスではさらにこの体重増加が抑制された。組織学的解析より、DKOマウスでは、高脂肪食負荷による脂肪細胞の肥大、脂肪肝の形成も抑制されることがわかった。PGISを介したPGI2の産生低下は高脂肪食負荷による肥満の抑制につながること、mPGES-1とPGISをともに欠損させるとPGF2αなどが増加し、PGISのみを欠損させるよりも脂肪量を減少させることが示唆された。
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