末梢神経障害後、脊髄マイクログリアにてロイコトリエン産生酵素mRNAが数種類発現増加すること、その受容体が脊髄ニューロンに発現していること、さらに阻害剤の投与により神経障害性疼痛モデルにおける疼痛行動反応が抑制されることよりを発見し論文を発表してきた。この結果は、ロイコトリエンが末梢神経障害後に発症する疼痛行動において重要な役割を持っている可能性を示唆しており、本特定研究において、ロイコトリエンによる侵害受容調節機構の詳細を電気生理学的手法によって証明することを目的としている。現在までに脊髄後角におけるロイコトリエンによる興奮性調節機構の解明として以下の内容が得られており論文作成に向けて準備中である。 1. SD系ラットから脊髄横断スライス標本を作製し、膠様質細胞にブラインド・ホールセル・パッチクランプ法を適用し、ロイコトリエンLTC4の灌流投与により誘起される膜電流の性質を安定的に調べることが可能となった。微小興奮性シナプス後電流 miniature EPSC (mEPSC) に及ぼすロイコトリエン受容体活性化の影響を検討したが、LTB4のダイレクトなEPSC誘導はあまり顕著ではないことが明らかとなった。 2. そこで、NMDA電流に対する調節機構の解明を実験の中心テーマとすることに決定した。LTB4の投与が脊髄後角ニューロンのNMDA電流をどの程度、どの頻度で増幅するかを解明することを目的としている。現時点では、45ニューロン中12ニューロンでLTB4によるNMDA電流の増幅が確認されており、増加率は約2.6倍である。さらにLTB4の阻害である U75302によ、このNMDA電流の増加の抑制を確認した。 3. 現在、このNMDA電流の増加に関わる細胞内シグナル伝達系の解明のため、各種シグナル分子の抑制剤を投与して解明にあたっている。これらをまとめて論文の作成予定である。
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