研究概要 |
本研究では、移動中の始原生殖細胞(Primordial germ cell,以下PGC)を支える細胞外環境を生殖巣外ニッチとしてとらえ、その実体を明らかにすることを目的とする。特に、鳥類特異的に見られるPGCの血管内移動機構の解明を目指してきた。なぜなら、この現象は生物学的に興味深いことのみならず、がん転移や白血球のホーミングにも関連するであろうきわめて重要な事象であるからである。 研究代表者は、PGCが特定の血管(PGC-capturing vessel,以下PC血管)へトラップされる際の細胞挙動を、昨年開発したライブイメージング法によって観察した。その際、PGCはPC血管壁に特異的に接着すること、PC血管に挟まること、および血栓に参加して留まることを新たに見出した。このようにPGCがPC血管に挟まる様を捉えたことから、PGCがトラップされる要因が適度な血管径であると次に仮説を立て、その検証を行った。薬剤で血管径を人工的に操作したところ、PGCがPC血管にトラップされる数が有意に減少したことから、適度な血管径の重要性が示された。また、血栓形成の重要性を検証するために、胚を血栓溶解剤で処理したところ、PGCがPC血管にトラップされる数が有意に減少したため、この重要性も示された。これらの知見から示された細胞の転移現象(物理的要因や血栓形成に依存した機構)は極めて新規の概念を提出しており、ガン細胞や白血球の転移研究に大きなフィードバックをもたらすことは言うまでもない。
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