研究概要 |
群体ホヤは無性生殖で増殖する。ミダレキクイタボヤという群体ホヤでは,無性生殖により生まれた個体の寿命は2週間程度である。有性生殖期の個体では生殖腺が発達し,配偶子が形成される。本研究では,群体ホヤにおいて,無性生殖で連続的に生じる新個体に絶えず生殖細胞が供給される点に注目し,配偶子幹細胞(GSC)の維持と分化のメカニズムおよびGSCの制御に関わる幹細胞ニッチの分子的実体を明かにする。GSCからの配偶子分化を制御するメカニズムとしてBMPシグナリングに焦点を当て,BMP遺伝子とTGF-beta I型レセプター遺伝子の発現を調べた。ミダレキクイタボヤBMPのmRNAは,GSCおよび生殖系列細胞では検出されなかった。一方,無性生殖で表皮以外のほとんどの体細胞組織・器官を作り出す多能性上皮細胞でmRNAの発現が見られた。BMPシグナリングの阻害剤であるドルソモルフィンで処理しても,多能性上皮細胞からの形態形成に対する影響はなかった。また,マウスのリコンビナントBMP2/4で間充織細胞を処理すると,生殖前駆細胞およびその後の配偶子分化のマーカーであるVasa遺伝子の発現が誘導された。これらの結果は,配偶子幹細胞から生殖前駆細胞への分化が,体細胞性の多能性上皮で発現するBMPによって調節されている可能性を示唆している。GSCから生殖前駆細胞が分化する際,Vasaの転写が活性化される。ゲノムライブラリーを構築し,スクリーニングした結果,新たに2種のVasa遺伝子が見つかった。それらの上流配列をクローニングし,レポーター遺伝子を作製した。既知の配列を含め,3種のVasaの塩基配列を比較すると,エクソン・イントロンの構造とその塩基配列は相同であるのに対し,上流配列には,相同な領域の他に,3種それぞれにユニークな領域が見つかった。このことは,配偶子分化の過程で,少なくとも3つのVasa遺伝子が,それぞれ異なる調節を受け,転写が活性化されている可能性を示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
懸案事項である遺伝子導入法の改良については,新学術領域研究の班員と連携し,新規の方法論の採用も含め検討し,早期の解決を目指す。その他の実験については,当初の計画に沿って進める。
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