マウスの精子形成は、幹細胞系の中でも最も理解の進んだシステムの一つとなっているが、精原幹細胞から精子へと分化する培養系はまだ確立されていない。未分化型精原細胞、あるいは分化型精原細胞から長期培養して精子まで分化させることができれば、精原幹細胞の維持と分化の制御機構、という問題を解明する最適の系ができるであろう。そこで、未分化型精原細胞からの長期培養と分化系の確立をめざすことを目的とした。 生後6日目の精巣(生殖細胞はA型精原細胞までしか存在しない)を解離、再凝集させてコラーゲン内に包埋してフィルター上に乗せ、培地にKSRを添加、あるいは無添加で3次元培養した。培養0日目、セルトリ細胞は小さな凝集塊を形成していたが、筋様細胞やライデイッヒ細胞は丸い形でほぼ一様に分散していた。3日後、セルトリ細胞の凝集塊はcontrolでも大きくなり、筋様細胞はセルトリ細胞集団の周りに伸長した形で付着したが、KSRがあると著しく促進された。ライデイッヒ細胞はセルトリ細胞集団の外側に位置した。セルトリ細胞が産生することが知られているラミニンは、培養0日目はセルトリ細胞凝集塊の中にパッチ状に検出されたが、3日後には凝集塊の周りに検出された。次にセルトリ細胞の伸長をpan-cadherin抗体によって調べた。培養0日目、pan-cadherinは丸いセルトリ細胞と精原細胞に発現していた。KSRを加えて3週間後、セルトリ細胞は著しく伸長し、lumenも形成され、精巣の構造がほぼ完全に再構成された。しかし、controlでは、セルトリ細胞は伸長せず、lumenの形成も見られない。3週間後も未分化精原細胞は生存し、また多数の精母細胞が見られた。これらの結果は、精巣の再構成の機構とともに精原細胞からの分化機構についてin vitroで調べるモデル系が確立されたと考えられる。
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