研究実績の概要 |
本研究では、初期精原細胞のみ認められるゼブラフィッシュ変異体、NI161および PM035の原因遺伝子同定および表現型解析により、精原幹細胞の増殖と精子への分化を制御する因子の解明を目指している。本年度は以下の解析を進めた。 1) 昨年度変異遺伝子を同定した変異体NI161では、そのタンパク(以下NI161タンパク)に対する抗体を作製して発現パターンを解析した。減数分裂マーカーとの二重染色の結果、NI161タンパクはレプトテン期まで発現し、細胞質に局在することが分かった。そこで、生殖質のNuage構成要素であるVasa, Ziwi, Zili, Tdrd1, Tdrd6のそれぞれと二重染色を行ったところ、全てに対して共局在していた。以上の結果は、NI161タンパクが減数分裂移行期の精原細胞における新規Nuage構成要素であることを示している。 2) 昨年度、変異体NI161は全てオスになることが分かったため、性分化直前(受精後22日)の生殖巣でのNI161タンパクの発現を調べ、一部の生殖細胞ですでにその発現が始まっていることを認めた。ゼブラフィッシュでは卵母細胞が減数分裂異常をおこすとオス化することが知られており、NI161タンパクは卵母細胞においても減数分裂に必要であることが示唆された。 3) 変異体PM035については20個体の変異体からDNAを抽出してゲノム配列決定を進めた。現在データを解析中である。さらに、6ヶ月齢以上の成体を用いた表現型解析から、この変異体はA型精原細胞を維持できないことが分かった。幹細胞の維持に必要な因子であると推察される。 最後に、NI161変異体の解析により減数分裂に移る時期の新規Nuage構成要素が見つかった可能性が高くその意義は大きい。この因子を足がかりに減数分裂移行の新たな分子機構を提示できるものと考える。
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