公募研究
細胞は種々のストレスに対し、タンパク質の修飾を介して複数のシグナル伝達系を動かし、生命維持に当たるが、この修飾系に異常をきたすと、シグナルが過剰あるいは過少となり疾患を発症すると想定される。申請者がrasと協調的な新規癌遺伝子として単離したDJ-1は、その後、家族性パーキンソン病park7としても同定され、「癌と神経変性疾患」の相関性が考えられるようになった。DJ-1修飾には、システインの酸化、リジンのSUMO-1化、p53依存的なチロシンリン酸化などがあるが、この中で、106位システイン(C106)は酸化ストレスに応じSH(還元型)→SOH→SO2H→SO3Hと変動する。DJ-1の機能発現にはC106の適度な酸化が必須であるが、ストレス、環境・老化因子等により重度に酸化されると失調し、機能亢進すると癌に、また機能不全になると神経変性疾患をもたらすと考えられるが、詳細な分子機構は不明である。DJ-1はAkt,Erk経路などに関与する複数のシグナル伝達因子、p53などの転写因子、ミトコンドリアタンパク質と、C106酸化型のレベル依存的、あるいは非依存的に結合し、細胞死を抑制して細胞増殖を司ることを明らかにしてきた。本研究課題では、DJ-1のストレスに依存した修飾とタンパク質相互作用によるシグナル伝達経路調節を解析し、その表現系の変動(癌化または神経細胞死)を分子レベルで解明し、癌化と神経変性疾患の共通基盤モデルを提唱する。DJ-1欠損培養細胞およびDJ-1ノックアウトマウスを使って、酸化ストレスに依存したDJ-1のシグナル伝達経路、およびDJ-1のミトコンドリア機能調節機構と癌化、神経細胞死について解析する。今年度は、まずDJ-1が酸化ストレスに応じてp53のDNA結合領域と結合することに着目し、解析した。酸化ストレスにより酸化型になったDJ-1はp53のDNA結合領域へと結合して、p53のDUSP1プロモーターへの結合を阻害し、DUSP1の転写を抑制した。その結果、脱リン酸化が減少することにより酸化ストレス後のERKのリン酸化が増加し、細胞死が抑制された。また、DJ-1は、酸化ストレスから神経細胞を保護する機能を持つタンパク質の一つとして小胞モノアミン輸送体2(VMAT2)とも直接結合し、神経細胞内で共局在することを見出した(Ishikawa et al. BBRC in press)。さらに、DJ-1は神経細胞突起形成ならびに血管新生にも関与していることを見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の予想を超えた種々のタンパク質とDJ-1との結合・協調により、神経変性疾患原因および細胞癌化、両者に係る多様な事象に至るプロセスのシグナル伝達に参与していることが明らかになり、多様な展開が期待できる。
DJ-1が示す多様な生理機能は、様々な蛋白質との結合・協調により発現されると考えられる。各タンパク質との結合強度、結合様式について、領域班内の協同研究によりX線結晶構造解析を含め、解析を進める。
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Biochem.Biophys.Res.Commun
巻: (in press)
J.Biol.Chem.
巻: 286 ページ: 19191-19203
M110.216259v1
Mol.Neurodegeneration
巻: 6 ページ: 48-66
10.1186/1750-1326-6-48