公募研究
本研究の開始時、BIAcoreを用いた結合解離解析、MSによる糖鎖解析によって、αクロトーが認識するFGF23のο-結合型修飾糖鎖の末端がグルクロン酸であることを突き止めていた。さらに、末端グルクロン酸には硫酸基が結合していることがMSスペクトルによって予想された。この事実は、硫酸化グルクロン酸を認識するHNK-1抗体によっても支持されていた。硫酸化グルクロン酸は、ヘパリンおよびヘパラン硫酸が有する構造で、生体内では広く存在するが、ο-結合型糖鎖末端としては報告例がなかった。従って本研究の初年度は、グルクロン酸の何位に硫酸基が付加されているかという問題を解決することが目標であった。そこで化合物標品を用いてαクロトーとFGF23の結合に与える影響を定量評価したところ、3位に硫酸基が付加された化合物が最も大きな阻害特性を示したので、硫酸基付加部位を推定できたと考えた。αクロトーとNaポンプの結合に対して、エストロングルクロン酸が阻害活性を示す事を示した。これはクロトー分子にとって、FGF23のみならずNaポンプへの結合においてもグルクロン酸認識をモチーフとするという一般法則の発見を示している。この知見に基づいて、3位硫酸化グルクロン酸化合物の合成を開始した。この化合物は、クロトーの細胞内活性、すなわちNaポンプ細胞内リクルートを協力に阻害する事が期待でき、副甲状腺ホルモンの機能亢進症などの疾病に対して新規治療法を提供する端緒となる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
骨分泌ホルモンであるFGF23が腎臓尿細管でαクロトーに結合するためには、生理的濃度で受容体にアクセスする必要があるが、αクロトーの糖鎖構造に対する特異的親和性がその原因であると推論した。FGF23をはじめとする線維芽細胞成長因子の糖鎖修飾に関してはこれまでほとんど顧みられることがなかった。しかし本クロトー研究により、ペプチド間相互作用のみならず、糖鎖認識が生理的に決定的な役割を果たす事が示され、当初の目標であった、αクロトーが認識する糖鎖修飾の生物学的意義の理解に向けて大きな成果を得た。同時に、糖鎖の「あいまいさ」「ゆらぎ」の対照的概念として、特異的な糖鎖を認識する機構が糖転移酵素の進化の産物として問題提起できると理解している。また、糖鎖を認識できる構造を解明するため、本領域の中で東京大濡木研の支援を受け、αクロトータンパク質の結晶構造解析に入っていることも、大きな進展であると考える。
本領域の支援班である濡木研の研究支援を受け、αクロトータンパク質の構造解析を進める。これに基づきαクロトーの阻害剤を開発することは、αクロトーを抑制する治療が想定される疾患群(例:腎透析における副甲状腺機能亢進症;本邦での患者数約15万人)の治療に向けたリード化合物の情報を提供することになる。既にシーズとしてエストロングルクロン酸(EG)がαクロトーに結合して阻害作用を有することを発見しているので(JBC04)、これを硫酸化した化合物(硫酸化EG)をモチーフとする化合物を作成し、生体内とくに腎臓と副甲状腺でも阻害的に働くかどうか検証する。また、この化合物と結合した状態でのαクロトータンパク質の構造変化を熱力学的ないし計算化学的に予測し、記載した上、これらの成果を学術誌に発表する予定である。
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