研究領域 | 翻訳後修飾によるシグナル伝達制御の分子基盤と疾患発症におけるその破綻 |
研究課題/領域番号 |
23117530
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研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
後藤 英仁 愛知県がんセンター(研究所), 発がん制御研究部, 室長 (20393126)
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キーワード | チェックポイント / 癌 / Chk1 / p90 RSK |
研究概要 |
細胞には、紫外線(UV)や放射線などのDNAの損傷が生じた際やDNAの複製阻止が引き起こされた際、そのDNA異常を監視し修復するチェックポイント機構が存在する。このチェックポイント機構の中心分子として、ATR(ATM-and Rad3-relate)からチェックポイントキナーゼ1(Chk1)に至るリン酸化酵素(キナーゼ)カスケイドがその中心的な役割を担っている。しかし、ATR以外のキナーゼによるChk1の制御機構はほとんどわかっていない。 我々は、今年度、血清(増殖因子)刺激によって、Chk1のSer280が特異的にリン酸化されることを見出した。このリン酸化量の増加は、MAPキナーゼカスケイド(Ras-Raf-MEK-ERK-p90RSK)の活性化に伴って引き起こされ、U0126(MEK阻害剤)またはBI-D1870(p90RSK阻害剤)処理やRSK1/2に特異的なsiRNA処理にて減弱することが明らかとなった。血清刺激によってPI-3キナーゼ-Akt/PKB経路も活性化されたが、この経路の阻害剤やAkt1/2に特異的なsiRNA処理ではChk1-Ser280のリン酸化反応の減弱は認められなかった。In vitroにおける解析で、p90RSKはChk1を効率よくリン酸化すること、および、Chk1-Ser280はp90RSKのほぼ唯一のリン酸化部位であることが判明した。また、Chk1は、このSer280のリン酸化修飾に伴い、細胞質から核に移行することが明らかになった。さらに、このChk1の核内集積により、細胞周期(特に、G1期)進行の際のチェックポイント応答を円滑していることが判明した。以上の結果は、増殖刺激応答に呼応してChk1が核内集積することで、その後の細胞周期進行に伴い、発生しうるDNA障害に対応していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、Chk1-Ser280のリン酸化修飾を遂行する酵素の同定ならびにその生理的意義を解明することが今年度の到達目標であったが、これをクリアし、論文業績にまとめることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
今後、このリン酸化修飾が癌などの病態にどのように関与しているかを解明するとともに、これとは別個に、Chk1の新規リン酸化基質を検索していく。
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