我々は、昨年度までの研究で、DNA障害チェックポイントの際にChk1がセリン296の自己リン酸化修飾依存性に14-3-3ガンマと結合すること、この結合により、Chk1はCdc25Aのセリン76をリン酸化できるようになること、このシグナル伝達機構がDNA障害チェックポイントの際の細胞周期停止に必須であることを明らかにしてきた。本年度、(外的なDNA障害の存在しない)通常の細胞周期における14-3-3ガンマの機能について検討を行った。その結果、14-3-3ガンマは分裂期においてPlk1(分裂期キナーゼの1種)と結合していること、この結合はPlk1-セリン99のリン酸化修飾依存性に引き起こされていること、この結合により、Plk1の触媒活性が上昇することを明らかにした。興味深いことに、このセリン99のリン酸化修飾は、PI3キナーゼまたはAktの活性依存的に引き起こされていた。これら一連のPlk1の活性化過程を障害すると、スピンドルチェックポイント依存的に分裂中期に停止してしまうことが明らかになった。Plk1は、染色体分配を制御する分裂期キナーゼとして、PI3キナーゼーAkt経路は、細胞の増殖、生存、運動などを司る経路として位置づけられている。そのため、我々が導きだした結果は、分裂期のPlk1の14-3-3ガンマを介した活性化過程にPI3キナーゼーAkt経路が深く関与していることを示すものであり、癌におけるPI3キナーゼーAkt経路の異常活性化と染色体不安定性の関係を考えるうえでも示唆に富む知見といえる。
|