本年度は、銅による活性酸素ストレス応答を制御するKGB-1MAPキナーゼカスケードの上流を探索することにより、活性酸素を感知するセンサーおよびそれに至るまでの経路の同定を試みた。その結果、三量体Gタンパク質であるEGL-30およびホスホリパーゼCホモログであるEGL-8が線虫のプロテインキナーゼCホモログであるTPA-1を活性化し、それがMLK-1をリン酸化することによりこれを活性化することを見出した。また、別の三量体Gタンパク質であるGOA-1がEGL-30を負に制御することで、重金属耐性シグナルを負に制御することも見出した。さらにその上流で機能する因子についても遺伝学的に同定したが、この因子はin vitroで銅によって直接酸化修飾を受けることが既に報告されている因子であった。このことから、この因子こそが本研究において探し求めていた、MAPキナーゼカスケード上流の活性酸素のセンサーではないかと考えられる。一方、KGB-1 MAPキナーゼカスケードの下流については、KGB-1の下流で転写因子FOS-1がHis-richなタンパク質KREG-1などの転写制御を介して重金属耐性を制御することを発見した。さらにFOS-1がヒストンデアセチラーゼホモログであるHDA-1と複合体を形成して機能することも明らかにして、最終的に論文として発表した(業績参照)。一方、p38 MAPキナーゼカスケードについては、MAPKKKであるKIN-18とその結合因子であるCys-rich因子のASSM-1が、共に酸化ストレス応答に関与することを見出していたが、この2つの因子の結合が酸化ストレス処理により強まること、さらにその増強に他の線虫の因子は不必要であることを見出した。このことからASSM-1が酸化ストレスセンサーそのものである可能性がより強まった。
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