公募研究
TRPチャネルの酸化感受性を定量化するにあたり、「酸化還元電位」と「チャネル活性」という二つのパラメーターに着目した。即ち、異なった酸化力(酸化還元電位)を示す活性ジスルフィドを多数用意し、それらを添加した際のTRPチャネル活性を評価することで「酸化還元電位」と「TRPチャネル活性」との相関を調べた。その結果、酸化感受性TRPチャネルはそれぞれ固有の酸化感受性活性化の閾値をもつことが明らかになった。中でもTRPA1は最も高い酸化感受性を示し、その活性化閾値はO_2の酸化還元電位よりも低く、TRPA1のO_2に対する応答性が予見された。実際にTRPA1を発現させた細胞に高O2溶液を添加してみると、TRPA1を介した陽イオン電流が観察された。また、Cys点変異体の機能的評価及びラベリング実験により、高O2によるTRPA1の活性化には細胞質領域に存在するCys633とCys856の酸化が重要であることを見出した。Cysの側鎖のSH基はO_2により酸化されると、速やかにスルフェン酸(-SOH)へと変換され、その後スルフェン酸は近傍に存在するフリーなSH基と反応し、ジスルフィド結合(S-S)を形成する(酸化状態II)と考えられる、どちらの状態もTRPA1を活性化・開口させるが、酸化状態Iは細胞内においてグルタチオン等の還元タンパク質によって還元される比較的不安定な活性化状態にあり、酸化状態IIはグルタチオンでは還元されない比較的安定な活性化状態にあると考えられる。さらに、TRPA1は驚くべきO_2に対する応答性を示した。即ち、N_2ガスを通気させた低O_2溶液がTRPA1を介した陽イオン電流を活性化したのである。TRPA1のO_2に対する容量-反応関係は逆ベル型を示し、極小の反応を引き起こすO_2分圧は137mmHgと、通常の大気圧におけるO_2分圧(152mmHg)より低い値であった。ところで、TRPA1のアミノ末端領域にはプロリン(Pro)水酸化酵素(PHD)により反応を受ける配列(Pro水酸化モチーフ)が存在する。PHDはO_2とオキソグルタル酸を基質として要求し、Pro残基を水酸化する酸素添加酵素であり、細胞内低O_2応答に重要な低酸素誘導因子(Hyoxia-lnducible Factor:HIF)のアイソフォームであるHIF-1の活性制御を行なっていることが明らかにされている。PHDのO_2に対するミカエリス定数(KM)は大気圧下における溶存O_2濃度付近であり、生理的範囲内のO_2濃度の低下はPHDの水酸化酵素活性を低下させ、その結果、新たに合成されたHIF-1の水酸化される比率炉低下すると言われている。通常O_2状態下のTIOA1においては、Pro水酸化モチーフに存在するPro残基がPHDにより水酸化されており、これによりTRPA1の活性は抑えられていると考えられる。しかし、低O_2状態では新たに合成されたTRPA1がPHDによる水酸化反応を受けないため、TRPA1は抑制されずに活性化状態にあることになる。一方、高O_2状態においては、Cys酸化による活性促進がProの水酸化による活性阻害を凌駕し、TRPA1が活性化すると考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
活性ジスルフィドを用いたTRPチャネル群の酸化感受性の定量化に成功し、その有効性をTRPA1のO_2感受性の予見とその実験的確認という形で示すことができた。さらには、一連の研究の過程で全く新しいTRPA1という低酸素センサーを発見することもできた。
今後は、活性ジスルフィドを用いた酸化感受性の定量化を他タンパク質に適用して、本手法の有効性を拡張していくつもりである。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
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