研究領域 | 活性酸素のシグナル伝達機能 |
研究課題/領域番号 |
23117710
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
船戸 洋佑 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (60505775)
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キーワード | PRL / マグネシウム / がん転移 |
研究概要 |
本研究はがん転移に関わるPRL蛋白質について、MagExとのレドックス依存的な複合体形成を介して制御されるシグナル伝達機構の解明と、その酸化ストレス応答の意義を解明するものである。平成23年度においては、活性酸素ではなく、より生理的な酸化ストレス状況下での実験を行った。PRLを安定発現する細胞株を各種条件下で培養し、Akt/mTOR経路の活性化状態をこのシグナル伝達経路の代表的なエフェクター分子であるS6Kのリン酸化を指標にして解析した。その結果、定常状態においてはPRL安定発現株におけるS6Kのリン酸化状態の亢進は確認できなかったが、低酸素状態においてPRL安定発現株ではS6Kのリン酸化状態が高いまま維持されていた。また、PRLと結合し、Akt/mTOR経路を抑制するMg^<2+>排出蛋白質MagExについて、RNA干渉法によってその発現を抑制し、PRL安定発現株と同様に低酸素下で培養したところ、やはりAkt/mTOR経路の活性が保持されていた。実際のがん転移巣の形成時においては、低酸素状態など各種ストレス下での増殖が必要と考えられており、上記実験結果はPRLがMagExによるMg^<2+>の排出を直接結合することによって阻害し、Akt/mTOR経路を低酸素状態下でも高く維持することによってがん転移を促進しているというモデルが想起される。実際、マウス転移モデル実験において、Akt/mTOR経路の著名な阻害剤であるラパマイシンを投与したマウス群においては、PRL安定発現株における転移巣の増大が顕著に阻害されており、一方でAkt/mTOR経路と並ぶ増殖シグナル経路であるMAPK経路の阻害剤であるPD98059投与群では、コントロール群と比較して有意な差は見受けられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果より、ストレス環境のひとつである低酸素状態下においても、PRL安定発現株が高いAkt/mTOR活性を維持しており、そのことがPRLによるがん転移能亢進に繋がっていることを示唆する実験結果が得られた。また、PRL発現株におけるがん転移について、著名なmTOR阻害剤でありその誘導体が臨床応用されているラパマイシンが阻害効果を示すことも明らかにしており、今後臨床的な側面での発展も期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きPRLの酸化ががん転移時に果たす役割について解明するべく、個体レベルでの実験を中心に研究を進める。加えて、PRLが本来果たしている生理的機能を明らかにするべく、PRL遺伝子が単一である線虫におけるPRLの変異体株を用いた解析を行う。
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