研究概要 |
研究代表者は、実験室酵母において高温培養や過酸化水素処理等の酸化ストレス下で、プロリンからアルギニン合成が亢進されること、増加したアルギニンからNOが生成し、細胞にストレス耐性を付与することを見出した。また、酵母のNO合成酵素(NOS)として、鉄硫黄クラスターへの電子の転移活性が報告されているTah18タンパク質を同定した。今年度は、NO合成に関与するTah18の特性を解析するとともに、NOの下流シグナル経路の解析を行った。また、実用パン酵母におけるNOの合成系およびその生理機能についても解析した。 まず、組換え酵素を用いて、Tah18のNOS活性に関するキネティクスを測定したところ、Tah18単独で哺乳類のNOSと同程度の値が得られた。次に、Tah18と相互作用するDre2タンパク質がNOS活性に及ぼす影響を調べたところ、Dre2の条件的破壊株では、細胞内のDre2発現量の減少に伴い、NOS活性が上昇することを見出した。これらの結果から、Dre2がTah18のNOS活性を負に制御している可能性が考えられた。 次に、非酵素的NOドナーで処理した細胞を用いてDNAマイクロアレイ解析を行った。その結果、銅代謝(還元、取込み、輸送)に関与する転写因子Mac1の制御下にある遺伝子群(CTR1,FRE1,FRE7等)の転写量が増加していた。また、NO処理後の細胞では、細胞内の銅含量や銅依存的superoxide dismutase(SOD)活性が有意に上昇していた。以上の結果から、NOがMac1の活性を制御し(ニトロソ化?)、銅依存的なSODの活性上昇を介して、酵母に酸化ストレス耐性を付与することが明らかになった。 さらに、プロリン・アルギニン代謝の鍵酵素(Pro1,Mpr1)の高機能型変異酵素を発現させることで、NO合成系を強化した実用パン酵母を作製し、製パンストレス下での発酵能を評価した。その結果、製パンストレス(乾燥、冷凍など)に応答して生成したNOが、ROSレベルの上昇を抑えることで、発酵力を向上させることが判明した。
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