中枢神経系においてNO/cGMPによって誘導されるタンパク質S-グアニル化修飾に着目し、神経細胞の機能や生存維持におけるその役割を明らかにすることを目指した。前年度までに、レチノイン酸受容体刺激の下流で活性化されたNO/cGMPシグナルが、8-nitro-cGMPの産生とβ3-チュブリンのS-グアニル化修飾を伴ってドパミンニューロンの神経突起の形態形成や細胞保護において重要な役割を果たすことを明らかにした。そこで本年度は、レチノイン酸受容体刺激以外のより普遍的な刺激によっても同様のシグナル伝達系が駆動することを想定し、持続的脱分極刺激の効果について検討した。ラット胎仔由来初代培養中脳細胞において、細胞外K+濃度を40 mM増加させた条件でドパミン神経毒MPP+を72時間処置した場合、通常K+濃度条件下で認められる細胞死の誘導が著明に抑制された。この脱分極刺激によるドパミンニューロン保護効果は、NO合成酵素阻害薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ阻害薬、およびプロテインキナーゼG阻害薬によって遮断された。持続的脱分極刺激は、神経型NO合成酵素の発現には影響を与えなかったが、8-nitro-cGMPの産生を増大させるとともにS-グアニル化タンパク質レベルを増大させた。また、MPP+毒性に対するドパミンニューロン保護効果は、外因性に適用した8-nitro-cGMPにも認められた。さらに、脱分極刺激や8-nitro-cGMPの適用はプロテインキナーゼG非依存的にヘムオキシゲナーゼ-1 (HO-1)の発現を増大させ、HO-1を阻害すると脱分極刺激や8-nitro-cGMPのドパミンニューロン保護効果は有意に抑制された。これらの結果から、タンパク質S-グアニル化修飾は、少なくとも一部にはHO-1発現誘導を介して神経活動依存的な神経細胞保護機能を発揮することが初めて明らかになった。
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