本研究課題では、システインの生合成、その血中濃度上昇が心血管病の危険因子とされるホモシステインの蓄積、そして血管平滑筋弛緩などの多彩な作用を持つ硫化水素の産生に関わる2種のTranssulfuration酵素(CBSとCTH)の遺伝子欠損マウスを利用して、タンパク質システイン残基の化学修飾による病態の可能性を探った。風邪薬成分として汎用されるアセトアミノフェン(APAP)は、高濃度投与するとシトクロムP450により代謝されNAQPI(N-acetyl-p-benzoquinone imine)となり、システイン残基に結合(化学修飾)することでタンパク質を変性させ肝細胞死を誘導することが知られているが、まずCTH欠損マウスがAPAPに対し脆弱であることを見出した。CTH欠損マウスの肝臓グルタチオンレベルは野生型マウスの半分程度であり、なおかつAPAP処理によって急速に枯渇することが判明した。CTH欠損によるシステイン生合成不全によりグルタチオンが枯渇しやすくなり、NAQPIによるシステイン修飾が進んだと考えられる。また我々は、硫化水素ドナーのマウス腹腔内投与あるいは短期間の絶食により、ランゲンドルフ灌流心における虚血再灌流時の心筋障害が減弱されることを見出した。本研究費により購入した等電点電気泳動装置を用いたEttan 2D-DIGE法により絶食による心臓タンパク質の発現変化を調べたが、肝臓や胸腺など大きく萎縮する臓器とは対照的に、ほとんど萎縮しない心臓では大きな変化は観察されなかった。また、これらのIntervetionによる心筋保護効果はCBSあるいはCTHの遺伝子欠損マウスでは観察されなかった。両欠損マウスにおける高ホモシステイン血症が内在性硫化水素の作用に拮抗する可能性を考えて、今後タンパク質システイン残基の化学修飾を同定していく予定である。
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