前年、造血前駆細胞でHes1の短周期的発現変動を確認した。この生物学的な意義を解明するため、Hes1の短周期的発現変動が観察される細胞の分離を試みたが不成功であった。 一方、マウス胎仔肝造血前駆細胞にMLL融合遺伝子を導入し同系マウスに移植することで急性骨髄性白血病(AML)を発症させるモデル実験系において、Hes1ノックアウトマウスを用いて解析した。Hes1ノックアウトマウス胎仔肝造血前駆細胞にMLL融合遺伝子を導入して同系マウスに移植すると、AMLの発症が有意に促進された。また、Hes1欠損AML細胞ではFLT3の発現が亢進し、FLT3リガンド刺激により増殖が促進された。この増殖は、FLT3キナーゼ阻害剤によってキャンセルされた。さらに、WEB上のデータベースを解析し、ヒトMLL関連AMLでは、Hes1の発現とFLT3の発現との間に負の相関関係があることを見いだした。以上から、Hes1はFLT3の発現を抑制することを通じてAMLの発症を抑制しており、何らかの理由でHes1の発現が低下することによりFLT3の発現が亢進し、これがAMLの発症または進展に関与することが推察された。 NotchシグナルによるHes1の発現のコントロールがAMLの発症抑制に寄与しているかを検討するため、Notchシグナルで中心的な役割を果たすRBP-Jκのコンディショナル・ノックアウトマウスを用いてさらに解析を行った。その結果、RBP-Jκの欠損によりHes1欠損と同様のMLL融合遺伝子導入AMLの発症促進とFLT3発現亢進が確認された。以上から、Notch-Hes1を介するAML発症抑制機構の存在が示された。
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