研究領域 | 多方向かつ段階的に進行する細胞分化における運命決定メカニズムの解明 |
研究課題/領域番号 |
23118505
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
依馬 秀夫 慶應義塾大学, 医学部, 特任准教授 (50344445)
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キーワード | 発生・分化 / 再生医学 / 幹細胞 |
研究概要 |
造血幹細胞はその自己複製能と多分化能によって造血システムを恒常的に維持している。しかし、造血幹細胞が自己複製するか否か、分化する場合にどの細胞系譜を選択するかという運命の選択がどのように制御されているかよくわかっていなかった。本研究では「造血幹細胞は非対称性分裂を介して一方の娘細胞が造血幹細胞を維持し、他方の娘細胞が骨髄球系前駆細胞へコミットする」という申請者らの独自の分化モデルを検証することを目的とした。造血幹細胞の運命の選択機序を解明するために、申請者らが開発したクローナルなアッセイ法を用いた。作成したKusabira Orangeトランスジェニック(KuO Tg)マウスを解析したところ、赤血球、血小板を含む、すべての血球系がKuOを発現していることが確認できた。そこで、KuO Tgマウスの骨髄よりフローサイトメトリーを用いてKuO陽性でCD34-c-Kit+Sca-1+lineage marker陰性(CD34-KSL)造血幹細胞を分離した。また、CD34-KSL細胞をさらにCD150とCD41の発現強度で分画し、CD150+CD41-CD34-KSL細胞、CD150+CD41+CD34-KSL細胞、CD150-CD34-KSL、細胞を分離した。次に、これらの細胞分画を用いてsingle-cell transplantationを行った。移植後、KuOをsingle-cell由来の細胞のマーカーとして用いて解析し、どの細胞分画に造血幹細胞が存在するかを判定した。これらのクローナルな解析から、興味深いことが明らかとなってきた。それは2種類の造血幹細胞が存在することである。移植後のキネティックスを比較すると一方は放物線型を示し、他方はS字型を示す。前者は移植早期から多分化能を示すのに対して、後者は移植後期に多分化能を示した。造血再構築レベルは前者より後者の方が有意に高く、また再構築期間も前者より後者の方が有意に長いことが明らとなった。そこで、申請者らは前者をLimited HSC(Hematopoietic stem cell swith limited self-renewal capacity)として後者のHSCと区別することにした。LlimitedHSCは上記3分画に存在するのに対して、HSCはCD150+CD41-分画にのみ存在することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Kusabira Orangeトランスジェニックマウスを用いたsingle-cell transplantationの実験系を確立することができた。これによって、次のスッテプであるpaired daughter cells実験を進めることができるから。また、Limited HSCとHSCを区別することによって、両者の造血系再構築における役割分担を解析し、新しい知見が得れると期待されるから。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの報告は二つの細胞集団の上下関係を示唆するのみである。例えば、分化段階の上位にある造血幹細胞集団から下位にある造血前駆細胞集団への直接の分化経路を証明できていない。二つの細胞集団の関係を明らかにできる方法にPaired daughter cellsアッセイがある。そこで、上位にある造血幹細胞が1回の分裂を介して下位にある前駆細胞を産生するかどうかを解析することによって、造血幹細胞の初期分化経路を明らかにする。また、同様な手法を用いて、HSCとlimited HSCの関係も明らかにしていきたい。
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