造血幹細胞がどのようにして各細胞系譜へコミットするのか不明であった。造血幹細胞の運命の選択機序を解明するためにはクローナルな解析が欠かせない。申請者らはSingle-cell transplanation実験とPaired daughter cell実験(1個の造血幹細胞を培養し1回分裂させ2個の娘細胞を得た後、それぞれの娘細胞を別々のマウスに移植する実験)によってこの問題に挑戦した。従来、ドナーマーカーとしてLy5.1が用いられてきたが、Ly5.1は赤血球と血小板には発現しておらず、これらの細胞系譜の解析ができていなかった。そこで、蛍光色素のKusabira Orange (KuO)を発現したトランスジェニックマウスを作成し、このマウスから分離した造血幹細胞を移植実験に用いることにより、KuOをドナーマーカーとして顆粒球、単球、Bリンパ球、Tリンパ球系のみならず、赤血球、血小板系までも解析することができた。その結果、1個の造血幹細胞によって最初に再構築されるのは血小板であることが判明した。Single-cell cultureによって約10%の造血幹細胞集団が巨核球コロニーを形成し、Single-cell transplantationによって約10%の細胞が巨核球系再構築細胞(rMkP)として検出された。これらの結果は造血幹細胞とrMkPはごく近縁関係にあることを示唆した。そこで、Paired daughter cell実験を行ったところ、2個の娘細胞のうち一方が造血幹細胞で他方がrMkPや骨髄系共通前駆細胞として検出された。以上より、造血幹細胞が非対称性分裂を介して骨髄球系へ直接的に分化する経路(Myeloid bypass)が想定された。そして、造血幹細胞は分化過程において骨髄球系を優先して産生し、その後リンパ球系を産生するという新しい血球分化モデルを提唱した。
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