研究実績の概要 |
発生のどのステップの細胞も同じゲノムを持っているが、非常に初期の幹細胞は広範な細胞への多分化能を持ち、発生がより進んでから現れる組織幹細胞の分化能は制限されている。大脳皮質神経幹細胞も発生が進むにつれ多分化能を失って行く。 我々は最近、この発生時期依存的な(細胞自律的な)神経系前駆細胞の分化運命転換に、ポリコーム群タンパク質複合体(PcG)が関与することを見いだした(Hirabayashi et al. Neuron 2009)。しかしながら、各発生時期において、PcGにより触媒されるヒストン修飾(H3K27me3)がゲノム上のどの部位で起きているかについては殆どわかっていない。そこで本研究では、各発生段階の神経幹細胞を大脳新皮質から単離し、H3K27me3のChIP-seqを行い、「発生の時間」がゲノム上のいかなる情報に転換されて「幹細胞の運命」につながるのかを理解することを試みた。 本研究課題においてはこれまでに、胎生12, 14, 16, 18日目のマウス胎児大脳皮質より神経幹細胞をFACSにより単離し、H3K27me3抗体によるChIP-seqを行った。その結果、発生時期に依存してPcGにより発現が抑制される遺伝子座を複数同定した。これらの遺伝子座におけるH3K27me3の修飾パターンを詳細に調べたところ、いくつかの遺伝子座においては共通の特徴的なパターンを見出すことができた。この特徴的なパターンの解析により、分化能の制限の分子実体が明らかになるのではないかと考えている。
|