本年度は、以下の成果が得られた。 JNKの活性化因子であるMKK7の遺伝的欠損細胞を用いて、分子時計制御機構の解明を試みた。その結果、MKK7-JNKシグナル経路が1) 分子時計の周期を制御すること、 2) PER2及びBMAL1のリン酸化を誘導すること、3) PER2のユビキチン化を抑制し安定化を誘導すること、さらに4) 既知のPER2分解誘導キナーゼであるCK1とは別のアミノ酸残基のリン酸化を誘導することを見出した。PER2の安定性制御は分子時計の周期制御に重要であることが知られている。本研究はMKK7-JNKシグナル経路がPER2の安定化を介して分子時計の周期を制御することを示唆する。 キナーゼカスケードであるHippoシグナルは、転写共役因子であるYAPをリン酸化することで細胞質に局在化させ、YAP依存的な遺伝子発現誘導を負に制御する。細胞質におけるリン酸化修飾を介したYAPの制御機構は良く理解されている一方で、YAPの核内における制御機構やリン酸化以外の翻訳後修飾による制御については不明な点が多く残されている。核内で生じる新たなYAPの翻訳後修飾の同定を目的として、生化学的なスクリーニング解析を行った。その結果、1) YAPの核内移行を誘導する刺激を同定し、2) 核内に移行したYAPがアセチル化酵素であるCBP/p300によってアセチル化されること、3) YAPのC末端の2ヶ所のリジンがアセチル化部位であること、4) これらの部位のアセチル化は脱アセチル化酵素であるSIRT1によって脱アセチル化されること、5) アセチル化によりYAPの転写活性化能が抑制されること、6) YAPのアセチル化は細胞生存能を制御していることを見出した。核内における新たなYAPの制御機構として、アセチル化サイクルの存在を初めて明らかにした
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