研究領域 | 多方向かつ段階的に進行する細胞分化における運命決定メカニズムの解明 |
研究課題/領域番号 |
23118515
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
縣 保年 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60263141)
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キーワード | 遺伝子発現 / 染色体ダイナミクス / コヒーシン / CTCF / クロマチン / エピジェネティクス / 造血系前駆細胞 / ChIP-Seq |
研究概要 |
細胞分化における遺伝子発現の変化には、染色体分配に関わるコヒーシンや、インシュレーターに結合するCTCFなどによる染色体のルーピングが関与することがわかって来た。そこで本研究では、これらの因子が、造血系細胞の分化において制御する遺伝子ネットワークを解明することを目的として、以下のような解析を行なった。 コヒーシンとCTCFによる細胞分化能と遺伝子発現変化を解析するために、それぞれに対するshRNA発現レトロウイルスベクターを作製し、分化誘導可能な造血系前駆細胞に導入した。細胞としては、B細胞分化に必須であるEBFの欠損マウスから樹立したEBF KO proB細胞を用いた。(この細胞は、Notchリガンドを発現するストローマ細胞上でIL-7濃度を下げて培養すると、T細胞へ分化を誘導することができる。)ノックダウンが確認できたものから、未分化なEBF KO proB細胞と、T細胞へ分化誘導した細胞からmRNAを調製し、マイクロアレイ解析を行ない、遺伝子発現の変化を調べている。 次に、コヒーシンとCTCFが結合するゲノム領域を同定するために、未分化なEBF KO proB細胞と、T細胞へ分化誘導した細胞で、まずコヒーシンに対するChIPを行ない、免疫沈降されたゲノムDNAを次世代シークエンサーによって解析した(ChIP-Seq)。その結果多くの結合領域を同定することができたが、コヒーシンが分化誘導特異的に結合する領域の中に、分化誘導に伴って特異的に発現が上昇する遺伝子が存在することがわかった。このことから、これらの遺伝子の発現が、T細胞分化誘導に伴って上昇するためには、コヒーシンの結合が機能的に関与する可能性を想定し、現在上記のコヒーシンとCTCFのノックダウンによる細胞分化能と遺伝子発現変化の解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コヒーシン、Mediatorのノックダウンによる細胞分化能と遺伝子発現変化の解析については、コヒーシン、Mediatorの各主要サブユニットに対するshRNA発現レトロウイルスベクターを作製し、分化誘導可能な造血系前駆細胞(EBF KO proB細胞)に導入した。コヒーシンのサブユニットRad21については、効率よいノックダウンベクターが得られたが、Mediatorについては既にES細胞で報告があったものを試したものの、EBF KO proB細胞では高いノックダウン効率が得られなかった。そこで新たにMediator各種サブユニットに対するshRNA発現レトロウイルスベクターを作製するとともに、多くのゲノム領域でコヒーシンと共局在するCTCFが、ES細胞では分化制御に重要なNanogやOct4などの遺伝子において共局在しないということに着目して、CTCFに対する効率のよいshRNA発現レトロウイルスベクターを入手し、Rad21とともにノックダウンを行なった。ノックダウンが確認できたものから、未分化なEBF KO proB細胞と、T細胞へ分化誘導した細胞からmRNAを調製し、マイクロアレイ解析を行ない、遺伝子発現の変化を調べている。 さらにコヒーシンやCTCFが結合する遺伝子領域をゲノムワイドに同定するために、未分化なEBF KO proB細胞と、T細胞へ分化誘導した細胞を用いて、これらの因子に対するChIPを行ない、免疫沈降されたゲノムDNAを次世代シークエンサーによって解析したところ(ChIP-Seq解析)、多くの結合領域を同定することができた。さらに、これらの因子が分化誘導特異的に結合する領域の中に、分化誘導に伴って特異的に発現が上昇する遺伝子が存在するという知見を得る事ができている。
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今後の研究の推進方策 |
ES細胞では、コヒーシンによって、分化制御に重要なNanogやOct4などの転写因子の遺伝子発現が染色体ルーピングを介して制御されることから、造血系前駆細胞でも主に転写因子に注目し、上記のマイクロアレイ解析とChIP-Seq解析の結果を併せて絞り込みをかける。さらに、マイクロアレイ解析とChIP-Seq解析で絞り込んだ転写因子の遺伝子について、コヒーシンが直接ルーピング等の染色体構造変化に関与するか、染色体領域の相互作用を高解像度で解析できるchromosome conformation capture (3C)アッセイによって検討を行なうとともに、それらの遺伝子をノックダウンして細胞分化能に変化が出ないか解析する。また、もしそれぞれの領域間の距離が3D-FISHで解析できるほど離れていれば、3D-FISHによっても接近状態を測定する。相互作用が確認された場合、コヒーシンのノックダウンによって相互作用が消失するか調べる。さらに結合領域がエンハンサーやプロモーターとして機能するかレポーターアッセイによって解析を行なう。 さらに、新たに作製を試みているMediator各種サブユニットに対するshRNA発現レトロウイルスベクターについても、ノックダウンが確認できたものから、未分化なEBF KO proB細胞と、T細胞へ分化誘導した細胞からmRNAを調製し、マイクロアレイ解析を行ない、遺伝子発現の変化を調べるとともに、Mediatorに対するChIP-Seq解析を行ない、上記のコヒーシンとCTCFの結果と併せてさらに絞り込みをかける。
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