研究領域 | 水を主役としたATPエネルギー変換 |
研究課題/領域番号 |
23118702
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
七谷 圭 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00547333)
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キーワード | ABCトランスポーター / ATP加水分解 / 一分子FRET / リポソーム |
研究概要 |
ABCトランスポーターのATP加水分解反応と構造変化をミリ秒の時間分解能で解析するため、(A) 一分子FRET観察システムの開発、(B) ATP加水分解メカニズムの解明の2段階に分け研究を進めている。 (A)一分子蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を用いた膜輸送体の一分子観察システムの開発:生化学的解析と結晶構造解析の結果からABCトランスポーターは基質輸送時に、ATP加水分解とダイナミックな構造変化を伴うことが明らかとなっている。本研究では、東北大学鎌形清人助教らと共同で開発した新たな一分子FRET観察装置を導入して、リポソームに再構成したABCトランスポーターの動的な構造変化を観察する手法を開発し、基質輸送時の構造変化を一分子観察する技術を確立を目指している。 ・一分子FRETに適した変異体の探索:ABCトランスポーター(MsbA)の基質輸送に伴い一分子内で起こるFRETを計測するため、計測に適した蛍光標識の導入カ所を探索した。 ・一分子FRET計測法の確立:任意に導入したシステイン残基を蛍光標識したMsbAを人工膜小胞(リポソーム)に再構成し、人工膜上での一分子FRET計測方法を確立した。 (B)蛍光ATPアナログを用いた一分子観察によるABCトランスポーターのATP加水分解メカニズムの解明:ATP加水分解反応と構造変化の相関を明らかにするため、一分子FRETにより構造変化を観察しながら、蛍光性ATPアナログの結合・解離を観察することを目的とし研究を進めている。 ・ATP加水分解と一分子FRET同時計測システムの開発:一分子のABCトランスポーター上で起こる2つの反応を同時に計測するため、励起レーザーと検出光路の改良を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年12月までに、一分子蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を用いた膜輸送体の1分子観察システムの開発を行い、平成24年3月までに、蛍光ATPアナログを用いた一分子観察によるABCトランスポーターのATP加水分解メカニズムの解析をする予定であったが、平成23年7月、故障した一分子蛍光観察装置の修理に5か月要することが判明し、一分子観察システムの開発が5か月中断した。そのため、全体的に遅れ気味ではあるが、引き続き目標達成に向けて研究を進める。
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今後の研究の推進方策 |
・一分子FRETによる基質輸送メカニズムの解析 MsbAを再構成したリポソーム内部のBufferに様々なATPアナログ(AMP-PNP, ATP/Viなど)を加えることにより、反応動力学的な解析を行う。必要性に応じて、加水分解能の低下した変異体や、基質輸送速度の低下した変異体を作製し解析に用いる。特に、結晶構造の解かれている各コンフォメーションの滞留時間などこれまでの生化学的な解析や結晶学的な解析では得られない時間軸に焦点をあて解析を進める。一分子FRET計測システムの開発は本研究のキーポイントである。しかしながら、もし計画通りに研究が進まない場合には、すでに確立しているバルクでのFRET計測システムにより、ラベル導入部位とFRET効率の変化を追跡し、MsbAの構造変化と機能の相関を追跡する。 ・同時観察による構造変化・ATP加水分解の連動性の解析 加水分解能の低下した変異体や、基質輸送速度の低下した変異体、非分解性のATPアナログ(AMP-PNP, ATP/Vi)を解析に用い、構造変化とATP加水分解の連動性の解析を行う。現在提唱されている、2つのATP加水分解モデルに明快な答えを与えられると期待できる。同時計測システムでの観察が困難である場合は、構造変化と加水分解反応を別々にFRET計測し滞留時間から相関を見いだす。
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