研究概要 |
目的:中性子回折法は水和水の配向を観察出来るユニークな実験手段である。ATP結合タンパク質のATP結合前後における水和水の配向変化を中性子回折法により原子レベルで観察し、ATPエネルギー変換を"負エントロピー"を産み出す構造変化の切り口から解明することを目的とする。ATP結合タンパク質として、ATP結合による水和水構造の特徴を考慮して、DAPKタンパク質を選択し、中性子回折実験を行い、ATP結合前後における水和水の配向の自由度の変化を決定し、エントロピー変化を求める。並行してDAPK-ATP結合の熱測定を行い、それにより得られるエントロピー変化と比較し、"負エントロピー"の起源を議論する。 試料調整:DAPKリン酸化領域(285アミノ酸残基)の合成DNAを用いて大腸菌で発現を試み成功した。イオン交換樹脂・ゲル濾過カラムクロマトグラフィー精製を行い、75mgの試料を取得した。 結晶育成:結晶化剤PEG1000,硫酸アンモニウム、硫酸リチウムで容易に結晶析出することが判明した。硫酸リチウムを用い、DAPK結晶成長相図を作成した。これをもとに結晶育成を行い、現在最大0.032mm^3の結晶を得ている。 X線結晶構造解析:KEK PF-ARNE3AでATPアナログ非結合型および結合型のX線回折実験を実施した。DAPKに結合しているATPアナログ物質は10個以上のオーダーした水分子と水和構造を形成しており、さらにその水分子を介して多くの水分子やアミノ酸側鎖と水素結合を形成していた。しかし、AMP-PNPやATP-γSのγ-リン酸基はディスオーダーしている。以上からATPアナログとしてはADPを用いるのが得策であることが判明した。更に,マグネシウムを加えるとoverallの温度因子が小さくなるので、マグネシウムイオンがADPの静的構造を安定化していることが判明した。
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