本研究では得られたV1-ATPaseの結晶構造と機能を繋ぐ計算機シミュレーションを用いた解析や重要残基変異体の構造機能解析を行い、V1-ATPaseのATP加水分解による機能発現機構の解明を目的とする。当初研究計画に従って、下記の研究結果を得た。 分子動力学/自由エネルギー計算によるATP結合部位への基質結合親和性の算出---V1-ATPaseの3箇所のATP結合部位は、ヌクレオチドに対してそれぞれ違う親和性を持つことが実験的に示されているが、それぞれの結合親和性がどの箇所に対応するかは実証されていない。今年度は新たに得られた結晶構造のAMP-PNPを結合している2つのAサブユニット単体について、エネルギー計算によるATP結合部位への基質結合親和性を算出した。 分子動力学シミュレーションによる触媒サブユニットの揺らぎと水和の解析---前年度の短時間シミュレーションの結果を基に、V1-ATPaseの回転軸にトルクを掛けたTargeted MDを10 nS行った。合成方向と分解方向への回転に伴ったA3B3複合体の構造変化の違いについて調べた。 機能発現に重要な残基の変異酵素の作製と機能構造解析---上記の解析で得られた結果から予想されるヌクレオチド結合に重要と考えられる残基やDG複合体とA3B3複合体の接触面に位置し、回転反応に重要と考えられる残基に関して、部位特異的変異導入を行った。得られた変異V1-ATPaseを精製し、A3B3複合体とDG複合体の結合の親和性及びATPase活性への影響を調べた。これによりDG複合体の役割の一端を理解することができた。
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