公募研究
真核生物の鞭毛運動はダイニンによる微小管の滑り運動が時間的・空間的に制御されて生じている。その制御機構には鞭毛の中心構造(中心小管とスポーク)が関与していることが示唆されているが、その詳細は分かっていない。我々はこれまでに、この構造を欠失して非運動性となった変異株がアルコール存在下や高圧環境下に屈曲運動を開始することを示し、ダイニンのモーター活性が軸糸の水和状態に応じて変化することを示唆した。本年度は以下のような実験を行い、軸糸の水和状態変化がダイニンにどのような影響を与えているのかを調べた。・圧力に対するクラミドモナスの運動性変化の解析高圧下における野生株および変異株の運動性を調べたところ、この運動には大きく分けて2種類ある鞭毛ダイニン(内腕ダイニンと外腕ダイニン)のうち外腕ダイニンが必須であることがわかった。・水和状態の変化に伴う外腕ダイニンの活性変化の解析外腕ダイニンの活性化は、ダイニン自身の水和状態変化によって生じる可能性と軸糸タンパク質を通じて間接的に生じる可能性が考えられた。前者の可能性を検討するために、溶液の水和状態を変化させながら外腕ダイニンの微小管滑り運動活性を調べたところ、この屈曲運動現象が観察される条件ではダイニンのモーター活性がむしろ低下することがわかった。この結果は、外腕ダイニンの活性化はダイニンそのものの変化による直接的なものではなく、軸糸の構造変化による間接的なものである可能性を示唆する。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、軸糸の水和状態による外腕ダイニンの活性変調がダイニン自身の水和状態変化による直接的なものか、軸糸タンパク質を通じた間接的なものかを明らかにすることである。これまでの研究から、ダイニンのモーター活性変化が間接的に生じている可能性が高いことが示唆された。目的の達成に近づきつつあると言える。
平成24年度は、軸糸のX線繊維回折により、水和状態に伴う軸糸の構造変化を直接とらえる実験を計画している。この研究により、鞭毛運動調節機構の一端が明らかになるものと期待している。
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Nature Genetics
巻: 44 ページ: 381-389
doi:10.1038/ng.1106
Cytoskeleteon
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