研究実績の概要 |
ATP合成酵素F1-ATPaseは、ATPを加水分解しながら回転運動を行う代表的な分子モーターである。本研究課題では、研究代表者がこれまでより開発した高圧力顕微鏡を用いて(Nishiyama and Sowa, Biophys J. (2012))、高圧力にあるF1-ATPaseの回転運動がどのように変化するのか調べてきた。平成24年度は、回転運動の変位トレースの詳細な解析を行った。高圧力下にある野生型のF1-ATPaseの回転トレースは、ATP濃度に依存せず120#186; を単位とするステップ状の変位から構成されており、80#186;と40#186;のサブステップは検出されなかった。また、120#186;ステップの立ち上がり速度には圧力依存性がみられなかったので、高圧力下であってもF1-ATPaseの構造やトルク発生にいたるポテンシャル形状にはほぼ影響がなかったことを意味する。その後の解析により、40#186;サブステップから80#186;サブステップまでのATP binding dwellに圧力依存性があることが判明し、ATPの結合反応、および、それに続く(1つ以上の)反応過程が高圧力の影響をうけることが明らかになった。これらの活性化体積は、それぞれ+100#197;3と+88#197;3であり、水分子3個分程度の体積変化に相当すする。今後、圧力の影響を顕著に受けている中間状態の構造が解明されれば、高圧力条件下で水を含んだMD計算を実施することで、F1-ATPaseの水和状態がどのようにして回転運動を生み出しているのか、その詳細なメカニズムが明らかになると期待される。
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