研究概要 |
1 有機溶媒相でのATP加水分解反応の熱力学的研究 ATP,ADP,Piの有機溶媒/水分配係数をもとに,有機溶媒中でのATP加水分解反応のギブスエネルギー変化のプロファイルを作成した.溶媒に依存して溶解度が異なるため,溶媒への移行のギブスエネルギー変化,すなわち水和エネルギーは-10~+10 kJ/molと変化した.一方,有機溶媒中での加水分解のギブスエネルギー変化は,-30~-40 kJ/molと,溶媒に依らず一定の値を示した.水溶液中でのATP加水分解エネルギー(-32~-44 kJ/mol)は,溶媒条件(pMgやpH)に依存して水和エネルギーに応じて変化しているのかもしれない. 2 有機溶媒相でのATP加水分解反応の速度論的研究 有機溶媒中,すなわち水和水をほとんど持たない状態でのATP加水分解反応を速度論的に調べ水溶液中の反応と比較することで,ATP加水分解における水和の寄与を明らかにすることを目指す.そのため,有機溶媒中でのATP加水分解反応が起こる条件を検討した.まず,溶媒中の水分含量をカールフィッシャー法により測定した.その結果,ATP,ADP,Piの良溶媒である(高級アルコール+脂肪酸アミン+酢酸)系では,水を5%(2.7M)程度含有し加水分解反応が可能であると思われる。 3 等温滴定熱測定による分子間相互作用における水和状態についての考察 a)ヘムオキシゲナーゼとヘムの結合 ヘムオキシゲナーゼとヘムの結合の熱力学的解析と結晶構造から,ヘムはタンパク質中で水の構造化を促進していると示唆される. b)Tbイオンとモデルペプチドの結合 Tbと塩基性アミノ酸を含むペプチドの結合は吸熱反応を確認した.Tbは構造形成イオンであり,結合に伴い水和水が遊離していると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機溶媒中にATPを溶解させる新規の条件を確立した.その溶媒条件を用いて,有機溶媒系-水系の分配係数から,水和水の少ない状態での加水分解に伴うギブスエネルギー変化を見積もり,ATP加水分解反応プロファイルにおける熱力学的評価を行なった.その結果から,ATP加水分解反応における水和の熱力学的役割について知見を得ることが出来た.さらに,これらの溶媒条件で,ATP加水分解反応が起こることを確認し,速度論的解析のため実験条件を確立した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,ATPを溶解させた有機溶媒中での速度論的解析を中心に遂行し,水和が加水分解反応の速度論的性質に与える影響を調べて行く.特に反応の活性化エネルギーの測定に注力する.熱力学的解析についても,測定の精査を進める予定である.具体的には,有機溶媒中でのATP,ADP,Piの解離状態についての知見を得るため,差滴定やNMRによる測定を試みる.これにより,分子の状態を詳細に記述することが出来,領域内の理論研究との連携できるようになると期待される.
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