研究概要 |
本研究は,Pループ型ATP加水分解酵素の機能発現機構について,分子シミュレーション等の計算科学的手法を用いて解析することを目的としている.当該年度には,DNA相同組換えで働くPループ型ATP加水分解酵素であるRad51,およびその活性化因子であるSwi5/Sfr1について,分子構造モデリングと分子動力学シミュレーションを行った.Rad51の原子レベルの立体構造はX線結晶解析により得られているが,モノマー間の界面にはATPは存在せず,電子顕微鏡研究などで得られている活性型の構造とは言えない.そこで,まず,フィラメントの最小単位である2量体について,古細菌の類縁タンパク質であるRadAの結晶構造を参照して分子構造モデリングを行い,モデリングした2量体について全原子分子動力学シミュレーションを遂行した.その結果は現在解析中であるが,ATPがモノマー間の「糊」として働いている様子が明らかになってきた.また,Rad51の活性化因子であるSwi5-Sfr1について,分子生物学及び構造生物学の専門家と共同し,X線小角散乱による全長の溶液構造決定,X線結晶解析によるSfr1C端ドメインとSwi5の複合体(Swi5-Sfr1C)の構造決定を行い,その全原子分子動力学シミュレーションを遂行した.その結果,Rad51の活性型構造を安定化させるメカニズムについてのモデルを提案した.また,他のPループ型ATP加水分解酵素として,F1-ATPaseの動作機構について,液体統計力学解析の専門家と共同研究を行い,動作機構のモデルを提案した.これらPループ型ATP加水分解酵素の特徴は多くのサブユニットからなる超分子複合体であるが,その複合体形成の原動力であるタンパク質間相互作用について,液体統計力学解析を適用し,相互作用で特に重要な部分であるホットスポット予測を行う方法も開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では,Rad51のモデリング及びシミュレーションを行う予定であったが,それのみならず,Rad51の活性化因子であるSwi5-Sfr1の研究を推進することができ,さらに,新学術領域内における液体統計力学の専門家との共同研究によって,例えば,タンパク質間相互作用で重要な部位であるホットスポット予測などの方法も開発することができた.
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今後の研究の推進方策 |
Pループ型ATP加水分解酵素の機能発現機構について,分子シミュレーション等の計算科学的手法を用いた解析を進める.その際に,液体統計力学の専門家のグループと密な連携をとり,新たな分野の開拓も含め,研究を遂行していく.
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